HOME > 大学概要 > 産官学連携 > クローズアップ!産官学連携「『健康医科学研究』が本格始動」
東海大学は2008年4月、医学部および大学院医学研究科のライフケアセンターを軸に、体育学部とスポーツ医科学研究所などとの連携で「産学連携プロジェクト・健康医科学研究」をスタート。本格的に研究活動を展開する体制を整えた。
同プロジェクトは、産学連携で「健康」の総合的な研究に取り組み、エビデンス(科学的な証拠)を共有することで、万人の健康維持に貢献しようというものだ。健康の維持・促進と病気予防のための研究・教育・普及を図っていく。個人の特性や違いに考慮した「オーダーメイドの健康医科学」を追求することが大きな特色だ。


研究活動の拠点となるのは、06年に医学研究科に開設した「ライフケアセンター」だ。同センターは、医学部付属病院の「抗加齢ドック」での検診成果を検証する機関として設立。健康増進や抗加齢に関する指導のエビデンスの立証と老化のメカニズムの解明に総合的に取り組んでいる。産学連携プロジェクトは、この研究活動を大きく前進させるものとして期待が大きい。
ライフケアセンター長の石井直明教授は、「理想的な運動や栄養は、個人によって大きく異なります。個体差を考慮に入れた、一人ひとりに最適の運動と栄養のプログラムを作成すること、そして健康プログラムの作成のための新しい測定技術の開発が目標です」と、同プロジェクトの意義を語る。
今回のプロジェクトの大きな特色は、「1企業と1教員」といった従来型の産学連携と異なり、数多くの企業に参画を呼びかけたことにある。スタート当初は、オリンパス、味の素、SRL、島津製作所の4社の参画だったが、現在では食品メーカーや運動機器メーカー・IT(情報技術)企業など20社以上が参画。大企業だけではなく、ベンチャー企業、中小企業など「運動」「栄養」「遺伝子」「ストレス」「データ」などに関連する多彩な企業が顔をそろえている。
企業側にとっては、(1)研究成果の情報やデータを入手できる、(2)製品開発やビジネスモデル検証のために研究の場が活用できる、(3)研究員を派遣して研究できる、などの利点がある。将来的には、社会人に開かれた健康ビジネスの大学院コースを開設する構想もある。一方、大学側にとっても、企業のデータを活用できることや、企業から様々な機材を提供されることが大きな利点だ。費用がかさむ疫学研究のための血液検査も、企業の協力により100人単位で検査ができる体制を整えた。
また、研究活動のスムースな運営のために、東海大学と参画企業で「健康医科学産業推進協議会」を発足。協議会では、定期的に勉強会やシンポジウムを開き、企業間の交流を深めている。
「1業種1社の参画ですが、これからも幅広く参画を呼びかけていきたいと考えています。普段は接することの少ない異業種の方と交流を深めることで、新しい製品の共同開発や、これまでにない斬新なアイデアを生み出す土壌が形成されています」(石井教授)
なお、「産学連携プロジェクト・健康医科学研究」は、その研究内容と新しい産学連携のスタイルが高く評価され、文部科学省の2008(平成20)年度「産学官連携戦略展開事業(戦略展開プログラム)」に「特色ある優れた産学官連携活動の推進」として採択されている。
産学連携プロジェクトの具体的な研究は、「基礎研究」と「応用研究」で構成される。基礎研究ではマウスなどを使って、以下の研究が行われている。(1)体内エネルギー産生が健康に与える影響の解明。(2)筋肉細胞が脂肪細胞に変化するメカニズムを、そこに関わる遺伝子や形態変化を研究することで明らかにする。(3)ミトコンドリアから活性酸素を過剰発生するマウスの突然変異体を用いて、酸化ストレスが関与する健康障害のメカニズムを解明する。(4)マウスと人を対象にした健康に関するジェネティクス(遺伝学)およびそれに関連した新しい分野であるエピジェネティクスの研究である。
応用研究では、ヒトの栄養と運動に関する最適プログラムを開発する。また、それに必要な測定技術や測定機器の開発を行う。さらに、収集したエビデンス・データをデータベースに構築し、データの提供側と利用側の双方にメリットのあるビジネスモデル構築を目指す。
既に最新の測定機器を備えた「健康医科学研究センター」を開設し、本格的な研究活動を行なう拠点となっている。
こうした基礎研究や応用研究の成果をベースに、各企業では「個別研究」を実施。企業の特性を活かしながら、新しい健康測定機器、運動機器、健康維持増進物質などの開発に向けての研究が行われる。

健康医科学研究の様々な活動のなかで、大きな注目を集めているのが、自治体参画による新たなプロジェクトだ。
09年には、医学部付属病院のある伊勢原市(神奈川県)の協力を得て、5月に55歳から65歳の女性ボランティアを募集。運動と栄養に関する最適なプログラムを提示し、プログラムの実施前と実施後の健康状態を比較した。ボランティア参加者には、通常であれば相当額かかる診断料が無料になるうえ、自分の健康状態や最新の健康情報を把握できるというメリットがある。
100人規模という、この種の研究としては大掛かりなもので、健康医科学研究センターの設備をフル活用して、09年9月から実証実験を開始。被験者を(1)何もしない、(2)運動を行う、(3)栄養補助食品を摂取する、(4)栄養補助食品を摂取し運動も行う、の4グループに分け、3カ月間、決められたプログラムを各自自宅で毎日実施してもらった。
10年3月には結果説明会を伊勢原キャンパスで開催。石井教授がデータ分析表に基づいて、検査値がどのような病気の指標であるかを詳しく解説したほか、動脈硬化や骨そしょう症、糖尿病などにかかりやすいかどうかを示す検査項目ごとにアドバイスを行った。
伊勢原市以外の自治体からの反響も大きく、問い合わせが相次いでいるという。地域社会への貢献度も高い、「産学+官」の大型連携プロジェクトとして期待されている。
健康医科学研究センターでは、このプロジェクトから得たデータを集積してデータベース化するとともに、効果に応じて健康プログラムの修正を行いながら、最終的には個人に最適なオーダーメイドの健康プログラムの完成を目指す。
「将来的には、駅前などに検診所を設け、市民が気楽に立ち寄って、オーダーメイドの健康プログラムを入手することも可能にしたい。こうした事業をビジネス化することも考えられます。『東海大学が日本人の健康を守る』という気概で、健康医科学研究を推進していきたいと考えています」と、石井教授は語っている。

一方、09年度には、総務省のICT地域経済活性化事業(「ユビキタス特区」事業)地域活力向上プロジェクト「地域コアによるユビキタス・エージングコントロール(UAC)支援システム」事業化のための実証実験を、芝浦工業大学、国士舘大学、NTTドコモなどと連携したうえ、多摩市民(東京都)の協力を得て実施している。
09年9月から3カ月間にわたって実施した実証実験では、55歳から65歳の100人を、(1)専門家が運動指導を行うグループと、(2)運動指導を行わないグループに分け、活動量計を完備した携帯電話などを用いて、一人ひとりの身体活動量(生活活動+運動)を毎日測定。測定データを携帯電話から送信することで、個人別の時系列データベースを構築し、運動量のアドバイスなどの情報を提供したほか、それにより得られる効果を実証した。
10年2月には、実証実験報告会を霞が関の東海大学校友会館で開催。実証実験に協力した市民に対して、3カ月間の計測結果を配布するとともに、「健康を科学する〜専門家が教えるやさしい老化予防!〜」と題した石井教授の講演などを実施した。
「健康の基準はあるようでないのが現状です。膨大な量のデータを読み解くことで『健康の質』の実証を目指した今回の取り組みは、その意味でも非常に貴重な研究であり、健康医科学を発展させるスタートになったと考えています。今回得られたデータを十分に活用し、高齢者生活支援システムの実用化に向けて、さらなる努力を続けていきたいです」(石井教授)
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