EPISODE3

雲の奥行きや内部構造の情報を得るべく、レーダー観測のトップを走る米国へ留学を果たす

JAXAでの「みどりⅡ」プロジェクトが一段落した2005年、宇宙工学に力を入れ、宇宙情報センターや情報技術センターなど、衛星からの地球環境調査ができる施設が充実していた東海大学の教員募集があり、大学へとキャリアの場を移す。

東海大学情報デザイン工学部情報システム学科の准教授に赴任以来、教育に力を入れると共に、移籍後も良好な関係を保っているJAXAとの共同研究の枠組みを利用することで、「みどりⅡ」衛星プロジェクトで得た成果を基に研究を続け、いくつもの論文を手がけた。しかし、「みどりⅡ」での観測で抱いたひとつの大きな謎は、当時まだ解明に至っていなかった。

「雲を構成する雲粒の大きさを測定するのに3つの波長帯が利用できるのですが、雲粒の粒径(半径)が波長帯ごとにいずれも違う値を示したのです〔図:1参照〕。おそらく雲粒の状況が雲の頂上付近と内部では異なるという仮説は立てられたのですが、それを観測で確認する手段がなかったのです」。

そこで、これまでの水平方向の広がりに加えて雲の奥行きや内部情報を得ることができれば、雲粒の状況やその生成段階をしっかり見極めることができると感じるように。さらに、雲粒の生成にはエアロゾル(大気中に浮遊する微粒子)が密接に関わっており、それらの詳細なデータの必要性は高まりつつあった。

「温室効果ガスの増加により温暖化が進む地球で、その温度上昇に対して雲がどのように反応していくのか分かっておらず、温暖化予測などの不確定要素となっています。特に最も大きな不確定要素は、エアロゾル、雲、それらの相互作用です。エアロゾル(約0.1μm〔マイクロメートル:1マイクロメートルは0.001ミリメートル〕)には海面で発生する海塩粒子、車や工場からの排出ガス(人為起源粒子)、火山灰、黄砂などが含まれます。雲はただ単に水蒸気があればできるのではなく、雲粒の核となるエアロゾルに水蒸気が凝結し、次第に雲として生成発達するのです。しかし、全地球規模におけるエアロゾルや雲の種類の把握、そしてなにより雲粒の成長から降雨に至るまでの詳細なプロセスについては、それをモデル化できるほどには明らかになっていないのです」。

こうした状況から少しでも抜け出すために、2008年から09年にかけて、東海大学の若手研究者が海外で学べる国内外研究派遣計画(C計画)に挑む。さらなる謎を解明しようと挑戦する姿勢、研究価値が東海大学に認められ、リモートセンシングの中でもレーダー観測のトップといえる、アメリカコロラド州立大学の教授に師事し、念願の研究留学を果たした。

図:1 人工衛星から推定した雲粒の半径〔µm〕

3.7μm波長を用いた推定
3.7μm波長を用いた推定
2.1μm波長を用いた推定
2.1μm波長を用いた推定
1.6μm波長を用いた推定
1.6μm波長を用いた推定

人工衛星(NASA「テラ衛星」)のデータ解析で推定した雲粒の半径(2006年7月の1カ月平均値)。画像が赤に近づくほど雲粒は大きくなる。観測に使用する波長帯(3.7µm、2.1µm、1.6µm)によって、それぞれ推定値が異なっている様子がわかる。

EPISODE4