EPISODE2

病気の責任遺伝子としてのHLA
人によってかかりやすい病気が違うのはなぜか

「HLAとは、人体の白血球のタイプを決定する遺伝子です。赤血球のタイプは皆さんご存じの血液型でABOの3種からなります。これに対してHLA遺伝子には7000種近い『多型』があり、ヒトはそれぞれそのうちの十数種類を持っています。そして、このHLAが100以上の疾患に大きな関わりを持っていることがわかってきました。血液型は輸血に役立ち、性格判断などにも使われますが、白血球を調べてHLA遺伝子の型がわかれば、移植が成功するかどうか(患者と臓器などを提供するドナーのHLA型は同一であることが、移植の成功の鍵となる)、またこの人はどの病気にかかりやすく、どの病気には免疫を持っているかなど、病気の予防や診断・治療に役立つ重要な情報がつかめるのです」。

第6染色体にあるHLA遺伝子以外にも、病気に関係する遺伝子はあるのだという。それらの遺伝子も入念に調べたが、ゲノム全体に対する相対危険率(病気の発症に及ぼす影響度合)は高くて1.5~2倍程度。それに対して第6染色体にあるHLA遺伝子の相対危険率は最低でも5~6倍、多い場合は100倍~1000倍もあり、病気に対する責任遺伝子(原因遺伝子)であることを解明した。

具体的にHLA遺伝子は次のような働きを示すという。

HLA遺伝子が作るHLA抗原は、自分自身である身体(自己)とは異なる外部から侵入してきた細菌やウイルスなど健康をおびやかす病原体(非自己)を探索・選別し、その情報をTリンパ球であるキラー細胞(細菌やウイルスが感染した細胞を死に至らせるリンパ球)などに伝える役割(抗原提示と呼ばれる)を担っている〔図:2参照〕。例えばエイズウイルスが体内に入ってきた場合、HLAがエイズウイルスの一部を捕まえ、その情報をキラー細胞であるTリンパ球に伝える。この情報を受けてTリンパ球が活性化し、ウイルスを攻撃することで免疫機能が働くのだ。また、糖尿病やリウマチなどの自己免疫疾患は、ある型のHLAタンパクが「自己」を「非自己」と誤認識してしまうため、キラー細胞が自分自身を攻撃してしまい、発症することがわかっている。

「7000種近いHLA遺伝子のどの型を持っているかは人それぞれであり、またHLA遺伝子には得手不得手があるため、エイズやインフルエンザに罹患しやすい人、罹患しにくい人、糖尿病を発症しやすい人、しにくい人がいるわけです。私たちの研究グループはこのHLA遺伝子と疾患の相関関係を20年以上研究し、2011年末までに30疾患程度の相関を解明することに成功しました」。

そこにはリウマチ、糖尿病、高血圧、乾癬(かんせん)、心筋梗塞、子宮内膜症など、多くの現代人が悩む重篤な病気が含まれている。疾患の発症機構の解明が進めば、診断や治療はもちろん、安全な臓器移植や効果的な創薬の道も開かれるため、国内のみならず海外からも同研究に注目が集まっている。

図:2  HLA抗原の働き

EPISODE2写真1

HLA抗原は感染した細菌やウイルスの断片である病原体由来ペプチドを結合して、免疫の主たる働き手であるTリンパ球にその危険情報を伝え、Tリンパ球の免疫機能の誘導を促す。

EPISODE3