EPISODE6

HLAタイピングの普及を進め、オーダーメイド医療や創薬につなげたい

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今後の目標は、次世代シーケンサーと共にHLAタイピングを早く普及させることだという。

「白血球のHLA型がわかる時代になれば、一人ひとりに応じたオーダーメイド医療の実現にもつながるでしょう」。

さらに大きな課題は創薬への橋渡しだ。実際、猪子教授は2002年10月にベンチャー企業「ジェノダイブファーマ」を設立し、産学連携により研究成果を創薬に活かす試みを行っている。

「例えば、糖尿病など生活習慣病の原因となるHLA遺伝子については、その分子構造の解明も進んでいますので、良い働きをするHLAに関してはその働きを活発にする薬、自己免疫疾患のように悪い働きをするHLAについてはその働きを抑制する薬を創ることが理論上可能です。近年は、HLAが薬の副作用に大きく影響していることがわかりました。我々も複数の製薬会社と連携を図り、共に創薬に取り組んでいるところです」。

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未来に明るい光を照らす一方で、ゲノム研究は安全性や倫理感の問題もある。90年代にクローン羊やクローンマウスが誕生したように、クローン人間ももはや夢物語ではない。実際、猪子教授は長年の研究から身長、視覚、性格、記憶などの遺伝子の発見にも成功している。

「病気の治療、創薬など医療に応用できるところは応用すべきですが、性格や能力、顔形、身長など人間として多様であることの素晴らしさは、認識に留めておく、遺伝子研究にはそんな姿勢が大切です」。

また、遺伝子が個性や病気の発現を全て決めるのではなく、環境や生活習慣が複合的に絡んでいるのは事実。

最後に研究を通して感じた想いを、次のように語ってくれた。

「ヒトの多型を研究してきた人間としては、多様であることの素晴らしさを認識してもらいたいですね。ある病気やある環境に強いヒトも、別の病気や環境には弱い。つまり同一タイプのヒトばかりだと、病気が蔓延し、人類が滅亡してしまうのです。多様な人間が認め合い、助け合い、支え合ってこそ種は生き延びる。だからひとつの思想・ひとつの宗教のみが正しいという方向は疑問が残ります。多様だからこそ、社会も活性化するのです」。

好奇心旺盛に研究し続けてくると、争いが絶えない社会や、ひとつの方向に流されがちな政治や宗教にも無関心ではいられなくなるようだ。長年ヒトゲノムを研究し続けてきた人の言葉には、 「病気で苦しむヒトが少なくなり、一人ひとりの個性が最大限活かされる世の中へ」という強い願いが感じられた。親から子、孫へと遺伝子が継承されていくように、猪子英俊教授のDNAや研究実績は東海大学、そして世界の後身へと受け継がれていく。

猪子 英俊 PROFILE