EPISODE2

骨格系疾患の原因遺伝子を解明し、国際学会や学会誌に発表

人間の場合、近親婚はタブーとなるが、マウスでは近親個体同士を何世代も掛け合わせていくことで、遺伝的に同じDNA配列の均質なマウス系統をつくることができる。その上で、薬品(化学物質)を注入し突然変異の発生を高め、遺伝する骨格系の異常を見つける。これらの骨格系に異常をきたすマウスの系統を、正常な系統と比較することでDNAのどこに変異が起きているのかを見つけるのだ。

「DNA配列に物理的変化を起こした細胞または個体を、突然変異体と呼びます。英語ではミュータントといいます。たったひとつDNA配列が異なる変異もあり見つけるのは大変ですが、ひとたび変異が見つかれば、関連する遺伝子と身体に現れた異常とをストレートに結び付けることができます」。

このような遺伝学的アプローチによって、異常の原因遺伝子をいくつか特定している。例えば、ドイツ留学時から開始した変異マウス系統(遺伝子に突然変異をもったマウスの系統)の解析では、炎症性関節炎を引き起こす原因として、細胞内シグナル伝達に関わるホスホリパーゼ遺伝子の変異(ミスセンス変異:DNA配列の変化がタンパク質の組成変化=アミノ酸置換を伴い、遺伝子の意味が変わること)を同定した〔図:3参照〕

「普通は細胞外より刺激となるシグナルなどがやってきた場合にだけ、細胞内へその伝達が起こります。しかし、異常の原因となる変異タンパクがあると刺激がなくてもシグナルを伝達してしまうため、免疫細胞が恒常的に活性化して炎症が起こることがわかりました」。

ただ、このような手法は実験動物では可能だが、ヒトではもちろん不可能で倫理的にも許されない。しかし、マウスでの研究が基となり、最近、自己免疫疾患患者の家系でも同じホスホリパーゼ遺伝子の変異が見つかった例が報告された。これからの研究の広がりを感じている。

また、骨の主成分で美肌や関節の痛みにも関与するといわれるコラーゲン。そのコラーゲンをつくる働きがあるⅠ型コラーゲン遺伝子の異常によって、骨形成不全症の原因となる変異も見つかった。

「ヒトでもⅠ型コラーゲンの異常による骨形成不全症の症例は数多く見つかっていますが、私達の見つけた変異マウスでは細胞内の小胞体に変異タンパク質が蓄積して細胞死を引き起こします。この小胞体ストレスが原因で骨形成不全症となることがわかりました〔図:4参照〕」。

これら近年の研究成果は国際学会に発表されているほか、アメリカ・リウマチ学会の学会誌など、国際的に評価の高い雑誌にも発表され、新しい発症メカニズムとして注目を集めた。また、将来的にヒトの新たな治療法や治療薬の解明につながる可能性も秘めている。

世界から期待を集める研究業績を上げているが、阿部講師は気さくな人柄で肩肘張るようなところがまるでない。難しい専門用語も飛び出てくるが、ひとつひとつの質問に丁寧に実直に答える姿に、"研究が好きでたまらない"思いが伝わってくる。

図:3 関節炎を発症するAli14変異マウスの表現型と遺伝子型

EPISODE2写真1

(A)Ali14マウスは四肢の異常(abnormal limb)を指標として系統化された。四肢末端部や耳に炎症症状を示す。手前よりホモ(Ali14/Ali14)とヘテロ(Ali14/+)マウス。

(B) Ali14マウスの下肢の組織切片像。皮膚、関節、骨髄に炎症細胞(青紫色)の浸潤が認められる。アメリカリウマチ学会誌の表紙を飾った。

(C) Ali14突然変異は、ホスホリパーゼCγ2遺伝子内に見つかった。この変異は、タンパク結合ドメインにあるアミノ酸の置換を引き起こすミスセンス変異であった。Abe et al. Arthritis & Rheumatism 2011, 63, 1301-1311より一部改変。

図:4 Aga2変異マウスの表現型とコラーゲンタンパク細胞内局在

EPISODE2写真2

Aga2マウスは歩行異常(abnormal gate)を指標として系統化された。I型コラーゲン遺伝子の変異が原因で骨形成不全症を発症する。Aga2マウスでは、矮小化し歪曲した下肢(B)や様々な骨化異常が認められる。野生型では、I型コラーゲンタンパクは細胞外へと分泌されて細胞外マトリックスとして機能する(C)。Aga2/+マウスでは、小胞体に蓄積され、細胞外には排出されていない(D, 矢印)。これらの異常は、Aga2変異タンパクの折りたたみ異常による小胞体ストレスが原因と考えられる。Lisse et al. PLoS Genetics 2008, 4, e7より一部改変。

EPISODE3