EPISODE3

遺伝子と環境の相関関係を追究し、人の疾患解明と治療法につなげたい

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現在、疾患関連遺伝子の研究は、単に変異を見つけるという段階から遺伝子同士の相互作用、遺伝子と環境の相関関係を解明する段階に入ってきており、阿部講師もそこに力を注いでいきたいという。

「変異マウスは原因と結果が結びつくことがシンプルで研究しやすいと思っていたのですが、決められた設計図だと思っていたDNA配列も環境要因などによって、その制御が変わってくることがわかってきました。今は、変異マウスに対して化学物質を投与したり、温度・栄養状態など環境を変化させたりすることで、遺伝子と環境の相互作用を分子レベルで突き詰めていくことがより大切だと感じています」。

例えばヒトにも、脊柱が側方へ曲がる脊椎側弯症という病気がある。これは先天性遺伝もあれば、神経性、外傷性、特発性もある。特に特発性は乳児期、学童期、思春期など発症時期が様々。これらも遺伝的要因に加えて発生過程や成長期の環境要因が複合的に絡み合っていると考えられ、その原因解明が待たれている。また、ドイツ留学時代に関節炎のマウスを詳細に調べたところ、脂質代謝や糖代謝、受精などにも異常があることがわかった。これはある遺伝子の異常は、ひとつの疾患の原因となるだけでなく、その遺伝子が働く様々な時期や組織に影響していることが考えられるという。

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「マウスでの実験を通して、こうした複雑で時空間的な遺伝子間の相互作用が、食物や化学物質を含めた環境に影響を受けていることは容易に想像できます。また、すでにたくさんの遺伝病の原因となる突然変異がわかっていますが、その変異がどういう細胞でどういう分子メカニズムをたどって身体的な症状となるかは、わかっていないことが多いのです。もちろんマウスが人間の疾患の完全なモデルになるわけではありませんが、マウスを用いてそうした分子メカニズムを実験的に丁寧に解き明かしていくことが、人間の疾病において新たな治療法の発見につながると考えています」。

今後はさらに脊椎奇形を起こす変異ラットや側弯症モデルとなる変異マウスの解析にも着手していきたいという。また、椎骨・椎間板形成の遺伝子からのアプローチで、椎間板における特異的なノックアウト(特定の遺伝子を取り払ってしまう)システムの構築をめざしている。これは、椎間板中心部にある髄核と周辺部分の繊維輪の相互作用の解明につながるとのこと。さらに「Pax1(パックスワン)」と呼ばれる脊椎動物の体の形態を決定づける上で重要な転写因子(DNAの情報をRNAに転写する過程を促進あるいは抑制する因子)の解析を行い、椎骨が曲がる要因なども深く探っていきたいという。

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