EPISODE1

集学的な治療が進む乳がん
米国留学で医療の最前線に触れる

近年、日本人女性の乳がんの罹患率が高まりつつある〔図:1参照〕。乳房専用のX線検査「マンモグラフィ」を使った乳がん検診が普及し、早期に発見できれば治りやすいとされる一方、手術後の傷跡や後遺症に悩む人も少なくない。再発の危険性があり、時に転移などから死に至る場合もある。東海大学付属病院の乳腺内分泌外科を訪れる患者さんの外来診療を行うと共に、東海大学医学部の環境を活用して、精力的に乳がんの研究に打ち込んでいるのが新倉直樹助教だ。挨拶を交わすだけで覇気が感じられ、快活で誠実な人柄が伝わってくる。

新倉助教は東海大学医学部を2002年に卒業後、同付属病院で前期研修を修了。外科学教室において外科学全般の教育を受け、助手に採用される。外科医として約7年間の修練のもと、2008年に外科専門医の資格を取得した。その後、外科学系の中でも乳腺内分泌外科に進み、臨床のかたわら学会発表や論文投稿を積極的に行うように。なぜ乳がんを研究しようと思ったのか、単刀直入に聞いてみた。

「がんが見つかれば手術で外科的に取り除くという時代は終わり、今はがんを集学的に治療しようという時代です。集学的とは抗がん剤など薬による化学療法、ホルモン療法、放射線療法など複数の治療法を組み合わせて、可能な限り手術を縮小する方向で多角的に治療をしましょう、ということです。その点で外科の領域の中でも、最も進んでいると感じたのが乳腺外科でした」。

診療を通じて感じたのは、これからの乳腺外科医はまさに集学的に学んでいかなければ適切な治療を行えない、ということ。その思いから、最も乳がん治療が進んだアメリカで研究をと考え、2009年夏に、がん研究において世界の中心とされるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターに留学。同センターの所有する豊富な乳がんのデータベースを活用して研究に打ち込んだ。

もともとアメリカでの研究に憧れるきっかけもあった。それは大学5年生の時、医学部が実施している海外派遣留学制度への参加だった。協定を結ぶニューヨーク医科大学で、現地の医学生と同じ臨床実習を経験。「人生の中で最も勉強しましたし、最先端の医療に刺激を受けました」という。この間、当時の東海大学医学部長・黒川清教授からメールで励ましも受けた。東海大学医学部だからこその良き体験となったそうだ。

「一人前の医師になるスピードはアメリカのほうが早いと感じましたし、これから自分が臨床医にせよ研究医にせよ、やるからにはアメリカと同じレベルに立ちたい、日本の中だけで終わりたくないと思っていました」。

2009年夏からの留学は1年4カ月に及んだ。帰国後、乳がんに関しての研究を国際学会で3回にわたり発表。また計5件の論文を投稿し、全て腫瘍学で指折りの国際誌に掲載される。これはいずれもアメリカの同センターで研究した成果が認められたものだ。

図:1 日本人女性の部位別がん粗罹患率推移(出典:公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計'11」)

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1980年代以降、がん全体の罹患率は男女共に増加を続けている。特に女性は乳がんの割合が増加。このほか大腸がん、肺がんの割合が増加し、胃がんの割合が減少していることが読み取れる。

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