EPISODE2

HER2発現制御メカニズムの解明に取り組み、学会に問題提起

新倉助教の世界的に評価された研究テーマに「乳がんにおける原発、再発腫瘍におけるHER2発現制御メカニズムの解明」がある。

現在、各臓器のがんには様々なタイプがあることがわかってきており、各タイプに応じた個別化治療が進んでいる。特に乳がんのタイプは大きく4つに分けられ、それぞれのタイプによって異なる治療法が行われているという。

「この中で私が注目したのは、がん細胞にHER2というタンパク質が過剰発現しているタイプの乳がんです。このタイプの乳がんは、全乳がん患者の20~25%を占めていて、再発した場合に効果があるはずの薬を投与しても効かない症例があります。その疑問を解消するため研究に打ち込みました」。

HER2は細胞の増殖や分化に深く関与するタンパク質であり、以前はHER2が過剰発現しているHER2陽性乳がんは予後があまり良くないとされていた。しかし、HER2を狙い撃ちにしてその機能を抑える分子標的治療薬、ハーセプチン(製品名。学術名はトラスツズマブ)という薬ができたため、HER2陽性乳がんは他のタイプに比べ治りやすい傾向にあった。

ただ、そのHER2陽性の乳がんにおいても再発することがある。再発した場合、これまでは原発腫瘍と再発腫瘍のタイプは変化しないと考えられていたが、原発腫瘍でHER2が陽性であったにもかかわらず、再発腫瘍ではHER2は陰性に変化している症例が報告されていた。

実際に、原発腫瘍がHER2陽性の182の再発症例に絞って詳しく調べたところ、24%の症例でHER2が陰性であることがわかった。また再発腫瘍がHER2陰性に変化した患者群の方がHER2陽性のままの患者群より生存期間が短いことも判明した〔図:2参照〕

「通常、HER2が陽性か陰性かは腫瘍の組織を採って調べますが、日本では乳がんが再発した多くの場合、患者さんへの負担が大きいため再発腫瘍の組織を採って調べることをせず、原発腫瘍と同じ治療が行われます。なぜHER2陽性だったものが陰性に変化するのかはまだわかっていませんが、再発時に適切な治療を行うためには再発腫瘍そのものの組織を調べることも検討する必要があるのではないでしょうか。研究を通してこの問題提起ができたのではないかと思います」。

実際にこの結論を含んだ論文は、海外でもインパクトを与えると共に、国内の医師間でも今後の乳がん治療戦略に大きな影響を与える解析結果と捉えられ、議論を巻き起こしているという。

「自分の論文が海外の研究者から評価されたり、図版が参照されたり、国内外の医師から問い合わせが来るのは素直に嬉しいですよ」。

図:2 再発部位によるHER2の発現の状態別生存曲線

EPISODE2写真1

HER2が原発腫瘍と再発腫瘍で一致した症例と、不一致であった症例の再発時からの生存期間をカプランマイアー法を用いて生存曲線で示してある。赤い線で示された不一致例において、統計学的にも有意に一致例より生存期間が短くなっていることがわかる。

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EPISODE3