EPISODE3

海外体験や留学がモチベーション
学会活動など研究の周知も積極的に

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2009年夏の留学では、深く研究したいという自らの欲求だけではなく、診療の場で乳がんに苦しむ患者さんを見て、"このままではいけない"との思いを強く持ったことが想像される。

留学前には研究内容をかなり吟味していたようで、留学後すぐにテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのIRB(倫理委員会)に「HER2タイプの患者の症例を研究したいから、データベースを使わせて欲しい」と数十枚にも及ぶ申請書類を提出。4カ月後にそれが認められ、1997年~2008年の間に同センターに集まった乳がんのデータベース12,700例を使用できることに。最終的に扱った182症例は、947症例から絞り込んでいったというから、データを精査するのもかなりの労力が必要だったようだ。

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今回の論文発表で学会に一石を投じる形となり、研究活動に自信が付いたことも表情から感じられた。しかし、それだけで満足はしていない。すでに今後の課題についても見据えている。

「なぜ陽性だったHER2が陰性になったのか、HER2陰性の再発腫瘍に対してもハーセプチンは効果があるのかなど、研究を進めていくには臨床試験が不可欠です。しかし、HER2陽性の乳がんが乳がん全体の20~25%、再発が見られるのはその20%、さらにHER2が再発腫瘍で陰性に変化する症例がその約4分の1となると、症例数は非常に少なくなります。そこで現在、東海大学の中で遺伝子解析を網羅的に行いながら、原発、再発腫瘍におけるHER2発現制御メカニズムの解明を進めています。同時に、国立がんセンターを中心とした臨床試験グループ『Japan clinical oncology group(JCOG)』に、HER2陽性の乳がんで化学療法と手術後にHER2が消えていた症例がどれくらいあるか、その予後はどうなのかといったことを調べる臨床研究も提案しています」。

また年内に、アメリカやヨーロッパの腫瘍学会で発表するなど、国際的活動も控えているという。

「再発腫瘍でHER2が陰性に変わることは、まだあまり知られていません。今後は乳がん治療に携わる方々に対して、いかに周知していくかも大きな課題だと思います」。

臨床の場に就きつつ自分を世界的な学会でアピールし、周囲を巻き込む。その行動力はどこから来るのかと思えば、「学生時代の前半に、バックパッカーとして世界を歩きまわった」という話に納得がいった。おそらくグローバルに自らの位置を相対化して考える習慣、積極的に誰とでも対話できる姿勢は、その間にも養われたのだろう。職場でも同僚の医師、コメディカルスタッフと時に気さくに対話し、時に真剣に議論する姿があった。

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