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自然光と建築、ヒトの関係を解き明かしたい

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学生たちが光の色や明るさ、強さを測る照度計や輝度計、分光放射計などの使い方を習っている。東海大学工学部建築学科研究室での1シーンだ。その中心で機器の特徴や計測の仕方を説明していたのが岩田利枝教授。細身の身体に溢れんばかりの情熱とエネルギーを秘めていることが、明るい笑顔と快活な口調からも伝わってくる。

「建物は元来、ヒトと自然の間にあり、厳しい自然環境を和らげヒトに適した環境を提供する役割を担います。しかし、これまでは建物をいかに造るかに焦点が当てられ、自然をどう取り込むか、どう維持していくかという視点が疎かになっていました。自然を取り込むより遮るという意識が強く、その結果、屋内の環境は照明や空調といった電気・機械設備に依存し、消費エネルギーはどんどん拡大していったのです」。

現在、建築物で使用されるエネルギー量は、世界の全エネルギー消費量の40%を占めるという。建築物の消費エネルギー削減は全世界的な課題であり、近年のグリーンビルディングやゼロエネルギービルディングといった言葉の流行は、その重要性を表している。

このようなゼロ・エミッションへの流れを敏感に感じ取り、東海大学助教授として岩田教授が建築環境工学分野に踏み込んだのは1998年のこと。それまでの経歴を見ると、人並み外れたバイタリティに気づく。

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79年に早稲田大学理工学部応用化学科を卒業。出版社への就職、結婚、出産を経て、83年に同大同学部の建築学科3年次に編入した。

「建築に興味が湧いて、学びは楽しくて仕方ありませんでした。年下の同級生が『課題が大変』と言っているけれど、これのどこが大変?って感じでした」。

研究レポートや設計の課題も苦にはならなかったという。応用化学科で実験やデータ分析を積み重ねた経験、出版社で編集作業に慣れ親しんだことも論文作成に活かされ、研究意欲はますます燃え盛っていく。

「応用化学科は学部卒でしたが、卒論で研究の楽しさを知りました」そこで建築学科では迷わず大学院に進学し研究者の道へ。国立公衆衛生院で主任研究官、建築物衛生室室長、オランダデルフト工科大学建築学部客員研究員を経て、研究環境の整った東海大学助教授に迎えられる。

建築系出身者は、研究者になると設計や構造計算分野に進むことが多い。対して建築環境工学分野の研究者は少なく、なかでも熱性能や機械的制御が重視されがちだ。しかし「建物に自然光を取り込むような光環境に焦点を当てた研究は少ない。だからこそ自分がやろうと思った」と、岩田教授は独自の視点を採り入れた研究に踏み込んだ。

「自然光照明も適切に行うことで、快適性と省エネルギーに貢献することができます。私の研究は、太陽エネルギーが建築を通して室内光環境を形成し、それがヒトの心理・生理に及ぼす影響を解くもの。ひいては自然光照明を支援するものです。室内光環境とヒトの反応、屋外環境と室内環境の関係を明らかにし、両者を総合して建築物の設計・制御を提案します。また、年間気象データを用いたシミュレーションから、建築物の消費エネルギー削減などもめざしています」。

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