EPISODE2

不快グレア(まぶしさ)指標を開発し、国内外のオフィス空間や植物園に応用

2009年には10年以上培った研究業績が認められ、日本建築学会賞を受賞。受賞論文は「視的快適性に基づく昼光照明の性能評価に関する研究」、これが今日の研究の礎となっている。

同論文の発展として、ヒトへの「刺激」と「反応」の関係を解明する指標作成も試みた。例えば「刺激→反応」のひとつに「不快グレア(まぶしさ)」がある。窓面のように面積が大きく、明るさの不均一な光源に対して、岩田教授は不快グレアを予測する式「PGSV(Predicted Glare Sensation Vote)」を考案(図1:参照)。直訳すると「ぎらぎらした不快な感覚を予測する指標」といえるだろうか。これは岩田教授が長年蓄積してきた実験データを基に開発した計算式で、国際的にも広く認められており、国際照明委員会(CIE)の委員会等でも昼光の「不快グレア指標」として知られている。

「昼光と視覚という、どちらも捕まえにくいものの組み合わせを対象にしているため、研究は困難を極めました。実用性や必要な精度、現実的な範囲をめざしての研究は妥協点を探る必要もありましたが、環境問題対策という観点からも必ず必要になるとの信念から、何とか太陽から人間までの繋がりを解きたいという気持ちで研究を続けました」。

2011年の東日本大震災時には、「自分の研究は何の役に立つのか」と無力感が募ったという。実用化されてこそ工学という意識を強く持ち、大学院時代に師事した教授の紹介などで企業との共同研究に力を入れていく。

そのひとつが、東京都清瀬市にある建設大手・株式会社大林組の技術研究所本館“テクノステーション”の省エネルギー計画だ。同建築は「ゼロエネルギービル化を目指した低炭素化と知的生産性に配慮した最先端オフィス」として計画され、岩田教授は日射遮蔽および昼光利用の計画検証を担当。約100m続く窓面にPGSVを応用した「ブラインド制御アルゴリズム」を導入し、外光をセンサーでキャッチすると共に屋内照度なども計測、それに応じてブラインドの開閉や角度の自動操作を可能にした(図2・3:参照)。本技術は2013年に空気調和・衛生工学会学会賞(技術賞)にも輝いている。

「このプログラムは社員が持つICカードの位置情報から、ゾーンごとに窓面に人がいるかどうかを判断。人がいればまぶしさを、いなければ室温を外光の取り込み度合いにより自動調整する点が特徴です。本建築はこのほか多様な省エネルギー技術により、CO2の排出量を64.7%削減することに成功しています。また空気調和・衛生工学会学会賞は、外部の景観を生かした昼光制御はもちろん、建設後2年間のチューニングデ―タの記録に対していただいた賞。つまり、適切な環境維持が評価されたことに価値があると感じています」。

他にも大手建設会社との共同研究には「清水建設京橋新本社ビルにおける光環境評価」があるほか、飲食店など多方面で太陽光利用による省エネルギー・快適性の受託研究を行っている。

また海外の建築物として、2012年に竣工した「シンガポール植物園」のファブリックブラインド制御にも携わった。

「普通、温室効果の高いガラスドーム内には熱帯地域の植物を置くことが多いのですが、ここは年間平均気温27℃を超えるシンガポール。この植物園では逆にガラスドーム内にシンガポールでは自生しない涼しい地域の植物を展示します。だからこそ、余分な熱は遮断し適切な光のみを採り入れ、冷房効果を高めることもできるブラインドが必要なのです。そこで、複雑なドーム形状に合わせた多数のファブリックブラインドを採用し、年間気象データを用いたシミュレーションを基にブラインドの開閉制御を行うことで、それぞれの植物にとって適正な光と熱を保ちつつ、消費エネルギーの少ない設備を実現しました」。

図1:不快グレア予測式PGSV(Predicted Glare Sensation Vote)

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窓などの大きい光源からの不快グレア予測指標を開発。現在、窓面からの不快グレア評価に用いられている。

図2:オフィスの自動制御ブラインドによる昼光利用

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図3:不快グレア抑制指標PGSVに基づくブラインド制御アルゴリズム

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開発指標PGSVをブラインド制御アルゴリズムに導入。
大林組技術研究所本館のブラインド制御として運用されている。

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