EPISODE2

共培養で椎間板髄核細胞を活性化
研究から臨床へ確かな道筋を照らす

1994年からの基礎研究は小型、中型、大型動物を用い、組織や細胞を試験管レベルで検討する方法(in vitro)と、生きた動物に直接細胞を移植して検討する方法(in vivo)のふたつの側面から実施。これにより、髄核細胞が椎間板内の線維輪の細胞を活性化することや、椎間板全体の代謝をコントロールすること、さらに椎間板の変性が進行するのを防ぐ働きがあることを突き止めた。そこで、椎間板髄核細胞の変性椎間板内への移植術を考案し、動物実験を継続した。

「大学院生や技術職員の方々の協力も得ながら実験を進めるうちに、椎間板変性の抑制を十分に行うには、活性度の高い髄核細胞を移植する必要があるとわかりました。そこで、細胞学的に弱い性状の椎間板髄核細胞と、骨髄の中で分化能をもつ間葉系幹細胞との『細胞間接着を伴う共培養』を導入。すると髄核細胞の良好な活性化が得られたのです」(図1:参照)

さらに、動物とは異なると考えられていた人間の椎間板髄核細胞も、骨髄間葉系幹細胞との『細胞間接着を伴う共培養』によって良好に活性化し、ひいては線維輪細胞を活性化することを証明。この過程の中で、髄核細胞の腫瘍化や染色体異常が起きないことも実証していった。そこで、この段階までの成果をもとに07年、「厚生労働省ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」に基づき『自家骨髄間葉系幹細胞により活性化された椎間板髄核細胞を用いた椎間板再生研究』を申請。08年に国内全医学領域で5番目、私立大学としては初の案件として承認された。

本案件における厚生労働省が承認した対象患者は、椎体間固定手術により椎間板全体を取り出した際、その隣の椎間板にすでに中程度の変性が出ている人。09年からこの対象患者10人に対し『細胞間接着を伴う共培養』によって活性化した髄核細胞の移植術を実施し、10例中9例で予定の3年間の経過観察を終了した。この間に合併症などの有害事象は一切見られず、画像上も良好な椎間板変性進行の抑制が見られているという(図2:参照)

「研究を開始した当初は、不要と思われる髄核を研究して何の意味がある?という、周囲の偏見も感じられました。しかし、疑問を自らに発して時間をかけて研究するうちに直感が当たりましたね。先ほど椎間板には自己幹細胞が存在しないと考えられてきたと述べましたが、この研究を私たちが進める中で、2012年に世界で初めて椎間板内に自己幹細胞が存在することを、世界的ジャーナル誌(Nature Communications)上で報告することができました」。

今後は手術で固定を行わなかった場合でも、将来必要になった時に「活性化髄核細胞移植術」を行えるよう臨床研究を進めていく予定だという。

「その場合、取り出したヘルニア腫瘤の中から髄核細胞も分離し、一定期間冷凍保存しておく必要がありますが、すでに冷凍・解凍後にも活性度や細胞数に変化がないこと、細胞自体が異常を示すことがないことは実験の結果明らかになっています。この冷凍保存した細胞を利用した移植法が確立できれば、椎間板ヘルニア摘出術を行った人だけではなく、12~15歳で手術することが多く、背骨の広範囲の矯正固定を行う脊柱側弯症の患者さんに対しても応用が可能になるでしょう。事前に髄核細胞を取り出しておけば、10~20年後に起こると予測される固定していない椎間板の変性を抑制することにも、応用できると考えています」。

図1:椎間板髄核細胞の活性化手法

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図2:活性化椎間板髄核細胞移植術の工程

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EPISODE3