EPISODE1

光機能セラミックスを水溶液で合成し、ミラーの防汚・防曇などに活路を見出す

東海大学理学部化学科の研究室を訪ねると、スタイリッシュなメガネにスーツ姿の男性。理知的な雰囲気を漂わせるこの人こそ、「光機能セラミックス」の合成に関する研究で、学内外から高い評価を得る冨田恒之講師だ。若々しい雰囲気は、研究に対する勢いを感じさせる。

「化学が大好きで、大学時代に自分の得意分野を活かすには研究者しかないと思いました。研究テーマを無機化学に決めたのは、有機化学の実験に用いる有機溶媒のにおいにどうしても慣れることができなかったから。その点、無機化学は揮発性物質をあまり使わず、そのようなにおいに悩まされることもない。自分にとって快適な環境で研究を行うということは、今後ますます求められる環境に優しいモノづくりにもつながると思ったのです」。

学部4年次には横浜国立大学にて外部研究。東京工業大学の大学院博士課程を修了し、東北大学で師と仰ぐ教授のもと研究をスタートさせた。そして学部卒業から6年、これまでに築き上げた博士論文や研究業績をアピール材料に、母校である東海大学に舞い戻った。スマートに見えながら、20代で自分の研究室を持つ夢をかなえるあたり、「骨太」な精神力が伺える。

冨田講師が研究対象とする「セラミックス」は、一般に粉と粉を混ぜて焼く「焼成」というシンプルな手法が用いられ、材料工学分野の研究者が関わる場合が多い。しかし冨田講師の研究では、セラミックスの生成に「水溶液」を利用した溶液化学的手法を用いるのが特徴だ。環境負荷が少ない独自の手法により、従来以上に高機能化したものやまだ世の中に存在しない新材料を創り出す。なかでも光機能セラミックスのひとつである光触媒の研究では、溶液を反応場として用いることで、それまで合成が困難だったブルカイト型二酸化チタンやブロンズ型二酸化チタン(図1:参照)を簡便かつ高純度で合成できることを見出した。さらに代表的業績として、「ブロンズ型二酸化チタン薄膜」を作製したことが挙げられる。

「二酸化チタンは光機能セラミックスのひとつで、光エネルギーによって反応を示す『光触媒』です。これには光を当てると親水性を示す特徴があり、車のドアミラーの曇り止めなどに使われてきました。しかし光触媒であるがゆえ、光の当たらない夜間は効果が出ない欠点もあります。そこで、水溶液を使って作製した『ブロンズ型二酸化チタン薄膜』を代替使用したところ、実験では一度光を当てれば5日間にわたり暗い場所でも親水性を保持できることが確認できました」。

これにより、ドアミラーやカーブミラーを夜間でも曇らせないコーティング剤が作製できるなど、様々な応用が期待できるという。

他にも二酸化チタンを利用して、東海大学工学部応用化学科の功刀義人教授との共同研究で「色素増感型の太陽電池の高機能化」に取り組んでいるほか、半導体のメモリ誘電体などへの応用も探り続けている。

「二酸化チタンは何かひとつのためというより、様々な応用の可能性があります。何に応用できるかは、工学系など他分野の研究者との共同研究が不可欠。私はその基礎となる合成物とそれをつくる合成技術、ノウハウとテクニックにおいて誰にも負けたくないと思っています」。

図1:合成粒子の電子顕微鏡画像

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合成したブルカイト型二酸化チタン粒子の電子顕微鏡画像(左上:高結晶性俵型ブルカイト、右上:ブルカイトナノ粒子)。ブロンズ型二酸化チタン粒子の電子顕微鏡画像(左下:高結晶性ブロンズ、右下:ブロンズ薄膜用ナノ粒子)。

EPISODE2