EPISODE2

蛍光体の医療応用にも光明
共同研究も活発に、学生に刺激を与える

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一方、照明やディスプレイに使われる「蛍光体」も、水溶液を使った合成プロセスにより、従来は実現できなかった微粒子の合成やその形状を高度に制御できる技術を見出している。

顕微鏡で見る蛍光体はいろいろな形があり、素人目にも美しい配列だ。

「微粒子の形が揃っていれば小さなモノに充填しやすく、小型化や高解像度が求められる時代に応用しやすい。効率良く多数の材料を合成し、新規の高輝度蛍光体を開発したりもしています」。

蛍光体の新しい利用法としては、がん治療薬剤への展開が挙げられる。大阪市立大学のある研究者がホウ素を多く含んだ新たながん治療薬の研究を進めており、冨田講師が作った蛍光体を薬剤の一部に使用。京都大学原子炉実験所の協力も得てマウス実験を行ったところ、腫瘍細胞の増殖抑制に高い効果が得られることが分かった。

「がん治療のひとつに放射線療法がありますが、放射線は患部のみならず皮膚など照射する対象物の経路に対してもダメージを与えてしまいます。その点ホウ素を含んだ薬液は、人体にほとんど害のない中性子線を体内で捕捉しアルファ線とリチウムイオンに変換、これががん細胞を攻撃します。旧来はそのための薬剤として有機化合物が使われてきましたが、私たちは無機化合物が高い効果を示すという成果を出しました」。

無機材料合成を通じて、バイオ・メディカル分野への応用に貢献できる可能性を見出していることは特筆に値する。

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2012年からは、文部科学省研究振興局の学術調査官に任命され、日本全体の科学技術の発展に対して研究内容の精査、研究者と官僚とのパイプ役としても活躍中。幅広い好奇心と軽いフットワークで、科学技術全般に対する見識も高い。

「今後も異なる分野からアイデアを吸収し、多様な分野で応用できる材料の研究を続けていきたいですね。そのためには学会での情報収集や自らの情報発信も不可欠だと思います。また総合大学である東海大学の強みを活かし、今まで以上に工学部や医学部など他学部と積極的な連携を深めていけたらと思います」。

一方、学生に対する授業科目は「化学基礎」「化学実験」「地学概論」「無機化学実験」などを担当。東海大学の「海外研修航海」にもこれまで二度乗船し、学生との交流を深めている。研究室には博士課程や修士課程、学部生を含めて12名が所属。室内には打ち合わせやプレゼン用に大型ディスプレイが置かれ、「自分たちの研究がこうした高精細画面につながっていると実感が持てるように」と、社会への道筋を示す深い愛情も感じられた。

「学生の研究テーマは自由で、本人のやりたい分野を突きつめてもらっています。その方が、新しく柔軟なアイデアが出る可能性が高いですから。また、研究室の予算はいくらで、試薬や実験器具にいくらかかるのかという金銭面はあえてオープンに。将来、学生が就職する企業や研究所でもコスト感覚は絶対必要になるので、リアルに語って社会を意識してもらっています」。

今日も地道に一つひとつのテーマと向き合い、実験・検証を繰り返し、旺盛に論文を書く。大学の春期休暇や夏期休暇中は、学会活動や学外共同研究に積極的に飛び回る。その姿は学生にとっても大きな刺激となるだろう。

「将来的に自分の研究がディスプレイや太陽電池、バイオ・メディカルなど様々な方向で応用され、環境に負荷をかけない材料や製造方法の開発につながり、持続可能な社会に貢献していくことが今の願いです」。

社会に応用という花を咲かせるための良き種となる研究が、冨田研究室にはある。異分野の研究者との“化学反応”もまた楽しみだ。

冨田 恒之 PROFILE