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国ごとの身体観の違いに愕然
「身体の近代化」をテーマに

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東海大学体育学部の研究室を訪ねると、一番に目に飛び込んできたのがスポーツの歴史や文化、思想、哲学系の蔵書棚。一方、その隣にはアメリカンフットボールのキャラクターグッズやボール、学生たちとの写真、同大が輩出した有名スポーツ選手の色紙などが飾ってある。そこから研究も教育も、学生と共に楽しんでいる姿が伝わってくる。鍛えた身体にストイックな精神も感じさせる、その人が松浪稔教授だ。

高校時代はラグビー部。大学時代はアメリカンフットボール選手として活躍。「高校・大学に行くなら必ずスポーツをすること」という家訓のもと、文武両道で大学まで突き進む。しかしスポーツ引退後の目標は曖昧で、大学院へ進み修士課程でスポーツと商業主義、研究生として日本体育史や教育史を学ぶが、博士課程進学には至らなかった。

折しも世間はバブル崩壊の最中。もう後戻りがきかない。活路を見出したい思いで青年海外協力隊へ。そしてこのフィリピンでの体験が、今の礎になったというから興味深い。

「当時、担当教授からは『身体の近代化』というテーマが面白いと聞いていましたが、私には今一つピンときませんでした。しかし、青年海外協力隊としてフィリピン国立レイテ師範大学へ赴任すると、教育現場で学生たちの姿に愕然としました。体操をするのに体操服に着替える習慣がない、整列や集合もできない、まっすぐ走れない・・・。日本人は整列や集合ができ、基本となる体操ができる。こうした状況の違いは一体どこからくるのか。これが『身体の近代化』と関係があるのか。深く調べてみる価値があるなと思ったのです」。

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帰国後、日本体育大学大学院博士後期課程に進学。その間複数の大学や短大で非常勤講師としても勤務。さらに福岡女子大学勤務時には「身体の近代化」をテーマに博士論文を書き上げ、博士の学位を取得。そして、2008年に東海大学へ。歴史の中で身体がどのように規範づけられてきたのか、今も研究に邁進している。

「日本は明治時代以降、西洋の文化に身の丈を合わせる近代化の波にさらされました。明治以前の文化は野蛮であり、非文明的であると否定。つまり西洋化することで、西洋を中心とした世界史に参入することになったのです。そしてそのために国家戦略、学校や軍隊教育、スポーツ競技、新聞等メディアの言説によって、法律を守る、時間を守る、順序を守ることを学び、それにより工場で働ける、スポーツでタイムを競うことのできる『近代化された身体』に、日本人は作りかえられてきたのです。文化的にも時計が発明され、時間の観念が植え付けられたことが大きかったですね」。

実際、博士論文を推敲しまとめた『身体の近代化』(叢文社刊 2010年)では、日本人の身体の近代化過程を、国家(教育制度)、メディア等の視点から詳細に明らかにした。特に明治期に出版された少年向け雑誌、スポーツイベントの新聞記事など、メディアがすでに明治時代から大きな影響を及ぼしてきた点は、身体の近代化を考える上で大変重要との認識をもたらし、2011年スポーツ史学会「学会賞」を受賞した。

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