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ナンバ歩きの錯誤も、論文で指摘
学生の身体意識も見つめ未来へ導く

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さらに、「身体の近代化」の延長線上に見えてきた「メディア・スポーツ・イベントによる近代的身体の形成」というテーマにも挑戦。明治期にすでに長距離競走や水泳大会などが奨励されてきた国家的背景、隅田川を泳いだ女性に対する社会の反応などを詳細に研究。身体の理想像がどのように提示されたのか、今日に続く日本人の身体の捉え方を浮き彫りにしてきた。

最近のユニークな論考では「日本人は『ナンバ』で歩いたのか?」があり、ここでは明治以前の日本人が右手と右足、左手と左足を同時に出す「ナンバ」で歩行していたという通説の錯誤とその原因を明らかにした。

「錯誤の原因は、日本人の90%以上が農耕民族であるとされたため。しかし、実際は日本人の90%以上が農耕を専業としていたわけではありません。もちろん一部にナンバで歩く人はいましたが、そうでない者もいたのです。また“ナンバ走り”とも言われますが、明治以前は走るという行為自体をする人が少なかったと思われます」。

現在は過去の検証に留まらず、学生との触れ合いも大切に「現代大学生の身体観の検証と身体教育へのアプローチ」を研究課題としている。

「例えば、今の学生にとって携帯電話は身体の一部のようになっていますが、その一方で従来の誰が出るか分からない電話のかけ方・受け方、コミュニケーションは不得手。就職したらそのようなことは日常茶飯事なので、従来型“おっさん社会”の慣習に対応した身体を取り戻す必要があると言っています(笑)。

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また、学生にアンケート調査を行うと、茶髪やピアス、タトゥなど、まるでオプションパーツのように自分の身体に手を加えることへ抵抗感がなくなっています。医学の進歩で臓器移植などが簡単に行われる時代になれば、さらに身体のモノ化が進んでいくはず。それに今やコンタクトレンズというモノを体内に入れたアスリートは当たり前ですし、水着やスパイクなどスポーツの中でも身体とモノの境目が見極めにくくなっています。このような身体の意識とスポーツが、どのように変容を遂げていくのかも見つめていきたいですね」。

研究の一方、主に体育学部の学生を対象に「スポーツ史」、「スポーツ人類学」などの講義を担当。選手経験や指導経験を活かすべくアメリカンフットボール部とチアリーディング部の部長も兼任し、東海大学のスポーツを後押ししている。スポーツ文化に興味を示す多くの学生が松浪教授の講義を受けるが、その中には世界に羽ばたくアスリートもいる。

「東海大学は日本のスポーツ界で、世界に一番近い大学だと実感しています。なぜならすぐ隣に世界を相手にしている学生・教員がいるからです。それにスポーツ施設や図書館など、湘南キャンパスには心身の鍛練のために充実した環境があります。学生には、ひとつのことに思い切り打ち込む一方で、勝ち負け以外に多様な価値観があること、スポーツの周辺にいろいろな世界があることを知ってもらえたら嬉しいですね」。

研究や講義、部活動まで、学生と積極的に親交を深める松浪教授。「自分の身体が何に影響されてどう形成されてきたかを知り、それが少しでも将来の気付きに繋がってくれれば」と願う心が伝わってきた。

松浪 稔 PROFILE