EPISODE1

造血幹細胞システムに着目し、再生反応の促進と維持をめざす

東海大学大学院医学研究科を訪ねると、「再生医学研究センター」と「がん幹細胞研究センター」のふたつのプレートがある。「私はこの両方に関わった研究をしています」と、柔和な表情で迎えてくれたのが八幡崇准教授。白衣姿はとても颯爽としていて、若々しい印象を受ける。

十数年前、生物が大好きな青年は免疫学の研究を志し、修士課程ができたばかりの東海大学医学研究科へ。身体に異物が入った時の生体反応、全体の免疫系を動かす仕組みを夢中で研究していた。

「大学院修士課程在学時の90年代後半、免疫学会である教授から造血幹細胞が発見されたと聞いて驚きました。この細胞は全ての造血系の源で、一生にわたって白血球から赤血球、血小板までを創り出します。さらに1個の正常な造血幹細胞を移植することで、造血障害が発生したマウスの造血機能が回復し、一生分の血液ができることも実証されました。これは免疫学とも根源的に関係するため興味が湧き、ぜひ自分の研究テーマにしたいと感じたのです」。

2001年に博士課程修了後、研究員から講師、准教授へと順調にキャリアを積む。そのなかで「幹細胞システムを基盤とした再生医療法の確立」を追究し続けた。

「造血幹細胞は骨髄の中にあり、胸骨や肋骨、脊髄、骨盤、腕や足の骨全てに存在します。また、多分化能と自己複製能を持つのも特徴です。つまり、生体内の状況に応じて赤血球や白血球などを供給し続けると同時に、細胞分裂により自己と同質の能力を有する幹細胞集団を形成することで、造血系の恒常性を維持しています。造血幹細胞移植は、この特性を利用して白血病など悪性血液疾患によって破綻した造血システムを、正常な造血システムに置き換えることをめざした治療法です」。

造血幹細胞移植は、iPS細胞(人工多能性幹細胞)をはじめ再生医療法のひな形ともいうべきもの。しかし、造血幹細胞に自己複製能があるとはいえ、恒久的に能力を維持するわけではない。様々なストレス要因により、幹細胞の自己複製と増殖・分化の機能制御が破綻するのだそうだ。これを「幹細胞老化」と呼び、造血幹細胞移植後の生着不全や白血病の再発、臓器不全や発がんの原因となる。

「造血幹細胞移植は前処置として、放射線や化学療法などにより患者さんの造血機能を停止させ、その後、骨髄移植あるいは臍帯血移植によって健常なドナーの造血幹細胞を移植します。ここで問題となるのが、移植直後に幹細胞が盛んな増殖反応を伴う再生を行うため、細胞周期が休止期にあった幹細胞に大きな負担をかけてしまうこと。私たちが実験を重ねた結果、急激な再生反応により幹細胞の自己複製能が低下し、最終的には組織再生機構が破綻する危険性が増大することを突き止めました(図1:参照)」。

普段、それほどアクティブではない幹細胞が盛んな増殖活動を行う。このことがストレスとなり、より早く幹細胞老化につながる。造血機能に関して早期回復をめざそうとするが故、悪循環に陥ることもあるのだ。

「幹細胞の組織再生能力を早く引き出すと同時に、再生反応に伴うストレスを可能な限り軽減させる。より安全で有効な再生医療法の確立に、今私たちは取り組んでいます」。

図1:DNA損傷による造血幹細胞の再生能低下

図1:DNA損傷による造血幹細胞の再生能低下

移植された休止期の造血幹細胞(HSC)は、血流にのって骨髄に辿り着き、盛んに増殖する。その反応が過剰に進むと細胞内に活性酸素が発生し、DNA損傷が蓄積する。DNA損傷は、図中の緑色蛍光によって示されるように、損傷部位におけるDNA損傷修復因子群の集積として検出される。DNA損傷は細胞増殖抑制因子群などの発現を誘導し、造血再生能の低下を引き起こす。造血幹細胞の老化の進行にともなうDNA損傷蓄積と再生能の低下の様子を左下のグラフと細胞の写真で示す。若い造血幹細胞はDNA損傷がほとんど検出されず、再生能も高い。一方、老化した造血幹細胞にはDNA損傷が蓄積し、再生能を失っていることが示される。

EPISODE2