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がん幹細胞の研究にも踏み出す
願いは病気に悲観しない人生

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八幡准教授は一貫して、幹細胞移植後の造血幹細胞の生体内動態を解析するため、免疫不全マウスの開発から移植方法の最適化、幹細胞の生体内動態解析法確立などに取り組んできた。その結果、長期間造血再生反応を繰り返すと、造血幹細胞に酸化的DNA損傷が誘導され、老化状態に陥り、造血再生能が失われることも明らかにした。

また、幹細胞の再生能力を高めるという点では、学内の他の研究者が開発した薬剤によって、組織再生能力を阻害する分子を抑制できることが分かった。移植時にこの新規低分子化合物を投与することにより、速やかな造血再生が促進され、長期間幹細胞活性が維持されることも提示。これについては人への臨床試験が始まっており、副作用など重要な事象が確認されなければ、2014年度中に第2相の臨床試験へと移っていく予定だ。

「東海大学には全国2位の保存個数を誇る臍帯血バンクがあり、研究にも活かせる恵まれた環境があります。再生医学センターやがん幹細胞医学センターには専門の壁を超え多様な研究者が集まっており、刺激し合えるのもメリット。私は臨床医ではありませんが、白血病をはじめ血液がん患者さんが多く存在することは、隣接する付属病院や臨床医との対話からもひしひしと感じています。だからこそ、造血幹細胞移植の効果や安全性を高めたい気持ちが強くなる。私たち研究者が臨床との架け橋になり、病気になったとしてもそれと長く付き合っていける、単なる延命ではなく悲観することなく前向きに人生を送れるような治療法を生み出したいですね」。

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医学研究者としての想いは患者さんだけでなく、学生にも向けられている。研究室では国費留学で学ぶマレーシアからの留学生をはじめ、学生へ研究方法や論文作成に関する指導を実施。医学部での学びに関する相談相手になると共に、良きアドバイスを送っている。また大学1・2年生向けには「基礎医学」の講義やチューターも担当し、医学基礎知識の醸成にも貢献している。

「医学部学生の多くは臨床医をめざしていますが、医師になったとしても常に疑問を持ち続け、自分なりにエビデンス(根拠)を積み上げていける医師になって欲しいですね。研究者として私は恵まれた道を歩んできたと感じますが、その恩返しとして、自分のように興味が湧いたら躊躇なく研究に踏み出せる、そんな環境整備にも貢献していけたら幸いです」。

なお、近年はがん細胞の中にも正常細胞と同じように幹細胞が存在し、そのがん幹細胞ががんを作り続ける元凶となることが分かっている。

「私たちが取り組んできた造血幹細胞の知見は、必ずがん幹細胞の研究にも役立つと信じて、現在、このがん幹細胞を標的とした治療法の開発にも取り組んでいます。幹細胞とは何か、どのようなシステムで制御されているのか、根源的な問いを追究しつつ、がん患者さんのためにも一刻も早くがん幹細胞を有効かつ安全に叩く治療法を確立していきたいですね」。

生物が大好きな青年が、長い時間をかけ進めてきた造血幹細胞やがん幹細胞の研究は、不治の病と思われた病気の治療にも光明を照らす可能性を秘める。八幡准教授の洞察力と探究心、リーダーシップにさらに大きな期待がかかる。

八幡 崇 PROFILE