セレノインスリンの高効率な化学合成を実現し、持効型インスリン製剤開発への新たな戦略を提案 (医薬総合研究部門・荒井堅太講師、岩岡道夫教授)

成人の糖尿病患者数は2021年までに全世界で5億3,700万人に達しており、現在では10人に1人が糖尿病有病者と推定されています。糖尿病の治療薬であるインスリン製剤は遺伝子組み換え技術を用いて製造されていますが、生物の力に頼らずに化学反応だけを用いてインスリンを合成する技術開発も進められています。化学合成法では、純度が高く品質の良いインスリンを合成できること、非天然アミノ酸を含むインスリン変異体の合成が容易であることなど、遺伝子組み換え法に比べて有利な点があります。荒井堅太講師と岩岡道夫教授のグループはこれまでインスリの化学合成で先駆的な研究成果を上げてきましたが、今回、硫黄の代わりにセレンを導入したインスリンの高効率的な化学合成を達成し、さらに、合成したセレノインスリンがラットを用いた実験で長時間血糖値抑制効果を示すことを明らかにしました。本研究は、東海大学の理学部、工学部、医学部の研究者および、東北大学、大阪大学、韓国基礎科学支援研究院(略称KBSI)の研究者による学際的かつ国際共同研究による研究成果です。インスリンの基礎分泌を補う持効型インスリン製剤の開発において新しい設計概念を提案するものと期待されます。

本研究成果は、11月21日(火)付でイギリスの国際化学誌『Communications Chemistry』電子版に掲載されました。
論文タイトル「Diselenide-bond replacement of the external disulfide bond of insulin increases its oligomerization leading to   sustained activity」https://www.nature.com/articles/s42004-023-01056-4

また、12月5日に東海大学と東北大学と大阪大学から共同プレスリリースを行いました。
https://www.tokai.ac.jp/news/detail/kbsi.html