国際シンポジウム「『臭気』の現代美術」を開催しました

東海大学創造科学技術研究機構では6月17日に湘南キャンパスの「Techno Cube(19号館)にあるオープンマルチアトリエで、国際シンポジウム「『臭気』の現代美術~制作・展示・保存・修復のケーススタディ~」を開催しました。このシンポジウムは、現代美術において作品の重要な一要素となる「臭気」に注目し、制作から展示、保存、修復に至る過程で生じる課題について、制作者の意図や収蔵方法、展示の視点から検証することを目的として開いたものです。前半は、アメリカ・ニューヨーク近代美術館(MoMA)の保存修復師ロジャー・グリフィス氏、ドイツ・ヴォルフスブルク美術館の保存修復師アンドレア・ザルトリウス氏、韓国の造形作家イ・ウォノ氏が講演し、後半は、美術作品や文化財の保存修復に関する研究を行っている本機構の田口かおり講師をモデレーターに3名がディスカッションを行いました。会場には、日本全国から大学の研究者や美術館の学芸員ら約80名が集いました。

「現代美術の臭いと美術館の挑戦」をテーマに講演したグリフィス氏は、腐りかけた魚をビーズや花で飾った韓国を代表する芸術家イ・ブルの作品や、ごみ箱や路上から拾い集めたものを使った昨年のインスタレーションなど、「臭い」を含んだ作品を展示した事例を紹介。「制作意図の尊重」「展示や強い臭気による観客やスタッフの健康面への配慮」といったさまざまな観点から試行錯誤した経緯を振り返り、「臭いのある作品の展示や収蔵にあたっては、作者と美術館関係者が徹底的に話し合うことが大切です。今後も解決策を見出すために努力を続けたい」と強調しました。

続いてザルトリウス氏が、「臭覚芸術の展示~ヴォルフスブルク美術館の例から~」と題して講演。「匂いや臭気による作品は現代美術分野で大変注目され、増加しつつあり、美術館はより適切な展示や保存、修復を実現するために挑戦し続けなければならない」と語り、作品が有する匂いについて同美術館がどのような展示や保存を試みたかを、近年の事例を交えて紹介しました。

イ氏は「感覚的なオブジェクト」をテーマに、自身の作品について紹介。売買契約を交わしてホームレスから買い上げたダンボールの家を解体し、巨大な家を作りあげて展示した『浮不動産』制作の経緯や、ダンボールにしみついた臭いと作品との関連について説明し、「消滅も変化も、全て作品の生の過程。臭いが消えていくことも作品の一部なのではないか」と語りました。

休憩をはさんで実施した公開討論では、「臭いのある作品を展示する際に美術館が講じた具体策」「消えてしまった臭いの再現の可能性」など会場から多くの質問が寄せられ、登壇者が活発に意見を交わしました。参加者からは、「創造的で実験的な現代美術を展示しようとする美術館の挑戦的な取り組みについて知り、キュレーターとして刺激を受けました」「“不快な臭いもアートなのか”“現代美術とは何か”など、さまざまなことを考えさせられる興味深い内容でした」などの感想が聞かれました。

本シンポジウムを企画した田口講師は、「これまで美術館から締め出される対象であった臭いは、現在では『作品』として展示されるようになりました。今回は、臭気のある作品をどのように未来に残していくかを考えるための貴重な機会になったと感じています。今後も情報交換やケース・スタディを通して臭覚芸術の保存、修復に関する研究を続けたい」と話しています。

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