文学部文芸創作学科卒業生の川口好美さんが「第60回群像新人評論賞」を受賞しました

文学部文芸創作学科を2009年度に卒業した川口好美さんの評論「不幸と共存――シモーヌ・ヴェイユ試論」が、講談社の「第60回群像新人評論賞」の優秀作に選ばれ、『群像』12月号に掲載されました。1958年に始まった同賞は、文芸批評家の登竜門ともいわれています。今回は、応募総数179篇から2作品が優秀作となりました。

「子どものころから読書が好きで、村上春樹さんの小説などを読んでいた」という川口さんは、東海大学付属仰星高校中等部、同高校の出身。大学への進学について迷っていた際、「堅苦しさのない自由な雰囲気があるから」と担任の教諭から勧められ、文芸創作学科に入学しました。「先生の言葉どおりの学科でした。『必要な単位を取得し、順当に卒業して就職するのもよい。でもそれだけが人生ではない』という気風があってうれしかった。作家としても活躍している先生方と語り合う中で、読むことと書くことの楽しさを知ると同時に、厳しさも学びました」と話します。

卒業後は、結婚を機に北海道にわたり畜産業に従事。「作家として作品を発表するための基礎になる勉強をしよう」と考えて、カントやフッサール、アランなどの哲学書を読む中で、フランスの哲学者、シモーヌ・ヴェイユ(1909-1943)に出合いました。「ヴェイユは哲学者、宗教家、社会運動家などさまざまな顔を持っています。普通はその中のどれか一つの立場に立って発言したり行動したりするのですが、彼女はそうではなかった。どの立場も排除することなく、思考し、発信し、実践した。そこに興味を持ちました」と、魅力を語ります。「群像新人評論賞」への応募を目指して本格的に執筆を始めたのは、昨年の夏。ヴェイユの著作や日記、関連論文などを丹念に読み、思想の根源や変遷をひも解く作業に没頭しました。「書くことがつらく、憂鬱な気持ちになって、『もう書けない』とペンを置く日もありました。でも、翌日になると『書きたい』と思う。やはり自分は、考えることや書くことが好きなのだ、と納得して執筆を続けることができました」と振り返ります。

「東海大で出会った先生方の評論はずっと読み続けてきましたし、この評論を書く際には、先生方に読んでもらうことを意識していました」という川口さん。「受賞を聞いたときには、ほっとしました。常に刺激を与えてくれた先生方や、執筆に専念させてくれた家族に感謝しています。この作品を読んだ人がヴェイユに興味をもってくれたらうれしい。これからも、自分の作品の読者に、そのテーマに興味を持つきっかけを提供できるような評論を書いていきたい」と語っています。

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