看護学科の金児-石野教授らが指定難病「鏡-緒方症候群」の発症のメカニズムを解明しました

医学部看護学科の金児-石野知子教授と東京医科歯科大学難治疾患研究所・石野史敏教授らの研究グループが、指定難病「鏡-緒方症候群」の発症のメカニズムを解明。「指定難病の鏡-緒方症候群はRTL1遺伝子の過剰発現で発症する」と題した論文が9月2日、国際科学雑誌『Development』オンライン版に掲載されました。

「鏡-緒方症候群」は、羊水過多や胎盤過形成、肋骨形態異常を伴う呼吸不全による新生児致死などに至る重篤な疾患で、治療法は確立されておらず、対症療法に頼っている状況です。この症候群は、通常は父親と母親から1本ずつ子どもに引き継がれる「ヒト14番染色体」が、2本とも父親から引き継がれる(父親性2倍体)ことで発症します。父親性2倍体ではRTL1遺伝子が過剰に発現し、逆に母親性2倍体では欠損します。金児-石野教授らはマウスを用いたこれまでの研究で、Rtl1遺伝子が過剰の場合は「鏡-緒方症候群」、欠損の場合は「テンプル症候群」の原因となることを突き止めていました。

研究グループは、父親性の染色体のみから発現するRTL1遺伝子が胎児期初期から新生児期にかけて筋肉組織で発現することに注目し、「鏡-緒方症候群」の特徴的な症状である筋肉異常を発生させたモデルマウスを用いて、発症のメカニズムの解明に着手。Rtl1遺伝子が、筋肉の発生や発達に重要な役割を担うサテライト細胞(筋幹細胞)の増殖や筋芽細胞の強度に関与し、筋肉の構造維持や筋収縮制御などに重要な働きを担っていること、そして肋間筋や横隔膜、腹壁の筋線維といった呼吸に関連する筋肉の構造異常を引き起こすことを明らかにしました。

金児-石野教授は、「ヒトにおいてもRTL1遺伝子が胎児の発生途中の筋肉に影響を及ぼし、過剰発現によって呼吸関係の筋肉に大きなダメージを与え、呼吸不全に陥った新生児が死に至ると推測されます。今回の成果は、RTL1を標的とした新たな治療法の開発につながると期待されます」と研究の意義を説明。さらに、「RTL1は太古にレトロウイルスの感染を受けて哺乳類のみが獲得した遺伝子で、大人の筋肉には機能せず、胎児と新生児の筋肉だけに機能します。RTL1の研究は、哺乳類の胎生と関係する発生生物学や進化学にも新しい知見を提供するものと考えています。治療法の開発はもちろん、関連する学問分野の発展に向けて研究を進展させたい」と話しています。

なお、『Development』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://dev.biologists.org/content/147/21/dev185918.figures-only

※ヒトの遺伝子はRTL1、マウスの遺伝子はRtl1と表記