理学部化学科の荒井講師と岩岡教授の研究グループがインスリンを簡便に化学合成する技術を開発しました

理学部化学科の荒井堅太講師と岩岡道夫教授らの研究グループが、糖尿病の治療薬として広く活用されているインスリンを、化学合成法を使って簡便に合成する新技術を開発しました。この手法は、インスリンを構成する2種類のポリペプチド鎖を1:1で水溶液中に入れて混合するだけで約40%の収率で合成できるという画期的なもので、現在広く用いられている遺伝子工学的な手法に比べ、大掛かりな設備投資を必要としないなど多くのメリットがあります。この研究は、大阪大学蛋白質研究所の北條裕信教授や東北大学多元物質研究所の稲葉謙次教授、福岡大学理学部化学科の安東勢津子講師らとの共同研究で、本研究の成果は5月3日(木)付でイギリスの国際化学誌「Communications Chemistry」電子版に掲載されました。

糖尿病患者数は世界的に増加傾向にあり、血糖値低下作用のあるインスリン製剤の需要は今後も高まることが予想されています。インスリンは、2本の異なるポリペプチド鎖(A鎖とB鎖)が、双方に含まれる硫黄原子(S)同士の結合(ジスフィルド結合)によってつながった特徴的な形をしているため、人工的に高い収率で合成するためには熟練した技術や大掛かりな装置が必要とされてきました。荒井講師らは昨年、A・B両鎖にある硫黄原子の一つをセレン原子(Se)に置き換えて水溶液中で混ぜ合わせる手法を用いて、インスリン製剤(セレノインスリン)を化学合成することに世界で初めて成功。その成果をもとに、天然のA鎖とB鎖が水溶液中でインスリンとなっていくメカニズムを詳細に解明してきました。その結果、水溶液を-10℃の温度としpH値を10.0にした環境下でA鎖とB鎖を約1:1の比率で混ぜ合わせると、硫黄原子を入れ替えなくても、ヒトインスリンでは49%、インスリンと同様の構造を持つ類似のペプチドホルモン「ヒト2型リラキシン」では47%の収率で合成できることを確認しました。

荒井講師と岩岡教授は、「この手法自体は60年ほど前に一度報告されていたものですが、これまでは1~5%の収率しか得られない非効率な方法と考えられてきました。あらためて原点回帰し、高効率化を可能にしたことで、従来に比べて大幅な合成プロセスの簡素化ができたことは将来の糖尿病治療にも大きく貢献できると期待しています。この手法を用いるとさまざまなタイプのインスリンを合成できることも確認できており、昨年合成に成功したセレノインスリンと合わせて、医学部などとの共同研究を進めてさまざまな応用の可能性を探っていきたい」と話しています。

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