医学部医学科の豊田准教授らが小腸からの尿酸排泄の重要性を明らかにしました

医学部医学科内科学系腎・代謝内科学の豊田雅夫准教授と東京薬科大学薬学部病態生理学教室の市田公美教授、同教室博士課程4年次生の大橋勇紀さんらの研究グループが、尿酸トランスポータータンパク質「ABCG2」を介した小腸からの尿酸排泄の重要性を解明。その成果をまとめた論文が、1月13日に科学雑誌『Scientific Reports』オンライン版に掲載されました。

尿酸の過剰産生や体外への排泄機能の低下により血中の尿酸濃度が高くなる「高尿酸血症」は、痛風や高血圧、腎臓病、心臓病、脳卒中などのリスクになることが知られています。健康なヒトでは、尿酸の大部分は腎臓から尿へ、その他は腸管から便に排泄されますが、血液透析患者は腎臓の機能が失われているため尿酸が排泄できず、高尿酸血症を合併しやすいことがわかっています。市田教授らはこれまでに、ヒトの腎臓や小腸などに存在するABCG2(細胞膜の内外に物質を運ぶ役割を持つタンパク質)が尿酸排泄を担い、ABCG2遺伝子の変異が尿酸排泄機能の低下を引き起こすことを報告。また、モデル動物実験の結果では、腎臓機能の低下に伴って小腸のABCG2の発現量が増えるといった、腸管からの尿酸排泄の重要性を示唆する成果も他の研究者から発表されていますが、ヒトの腸管がどの程度の尿酸を排泄できるのかは不明のままでした。

そこで研究グループでは、腎不全患者を対象にABCG2の分子機能を指標とした遺伝子解析に着手。本学医学部付属病院の腎内分泌代謝内科で診療にも携わる豊田准教授は、近隣の医療機関とのネットワークを生かして血液透析患者123名の血液サンプルの収集に協力しました。それらの解析の結果、透析中の末期腎不全患者の5分の2がABCG2の機能を低下させる遺伝子変異を有しており、腸管におけるABCG2の機能低下は血清尿酸値の上昇に強く関連していることを解明。さらに、ABCG2の機能と血清尿酸値の関連性の詳細な調査により、腸管のABCG2は1日に産生される尿酸の6割程度まで排泄できることも見いだしました。

豊田准教授は、「高尿酸血症を放置すると慢性腎臓病(CKD)になりやすいことがわかっています。高尿酸血症は腎機能を悪化させ、腎機能が悪化すると尿酸値が上がるという悪循環に陥り、最終的に血液透析に至るリスクが高まります。そのため、尿酸濃度が上がってきた場合は早期に治療して下げる必要がありますが、現在用いられている薬の中でも代謝経路が尿中排泄の場合、腎機能が悪化すると副作用のため、減量や中止が必要になるといった課題がありました。今回の成果は、ABCG2や腸管の尿酸排出機能に着目した新たなアプローチによって、より安全な治療法の開発につながると期待されます。多くの透析患者さんから血液を提供していただけたのは、本診療科が日ごろから培ってきた近隣医療機関との連携体制によるものと思います。協力してくださった患者さんや医療機関のスタッフの方々に感謝するとともに、本成果を還元できるよう、さらに臨床・研究に邁進していきます」と話しています。

※『Scientific Reports』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://www.nature.com/articles/s41598-022-26519-x