メンタル・ヘルス・ウェビナー「メンタル・ヘルスにおける対話とナラティブの力」を開催しました

健康学部では11月29日にオンラインで、メンタル・ヘルス・ウェビナー「メンタル・ヘルスにおける対話とナラティブの力」を開催しました。本セミナーは、メンタルヘルスに焦点を当てた東海大学ヨーロッパ学術センターとデンマーク・VIAユニバーシティカレッジとの3度目の共同開催で、VIA健康と福祉センター(認知症プログラム研究者)のアナス・モラー・イエンセン氏と、本学部の市川享子講師が講演。約70名が聴講しました。

はじめにヨーロッパ学術センターのヤコブ・スキュット・イエンセン副所長がセミナーの概要を説明。堀真奈美学部長(ヨーロッパ学術センター所長)が講師を紹介するとともに、「世代をこえた社会的なつながりを考えるきっかけになるのでは」と期待を寄せました。続いてVIAのイエンセン氏が、「生活史の記憶を思い出すトリガーの重要性について―世代を超えるつながり」をテーマに講演。1980年代にイギリスの臨床心理学者のトム・キットウッド氏が提唱した「パーソン・センタード・ケア」について解説し、「高齢者や認知症の人もただ単に衰退していくわけではなく、まだまだ成長する余地があります」と語りました。写真やにおい、音楽、質問といったトリガーによって記憶を想起させる「回想法」は、「心地よい思い出を引き出し、達成感や自尊心を感じてもらうことで、その人の行動や気分がよくなることを目指します」と話し、2006年から09年まで介護施設で行った研究についても解説しました。

続いて市川講師が「コミュニティ・レジリエンスにおける語り(ナラティブ)の力」について講演しました。これまで国内外での自然災害発生後の復興支援に携わってきたことを踏まえ、コミュニティ・レジリエンスと語りの関係について発表しました。「コミュニティ・レジリエンスの伸長にはソーシャル・キャピタルの醸成と公正の社会づくりが重要であるとしたうえで、レジリエンスとは、災害前の状況への回復に留まらず、創造が伴うもの」であるとしました。東日本大震災で被災した岩手県大槌町で、津波で流出した方言辞典の復刻を通して、「方言を媒体にした語りによって、当初語られていなかった地域の課題や困難が表出されるともに、被災によって分断されたソーシャル・キャピタルが方言を媒介にして結び直している様子が確認できました」と語りました。

それぞれの講演後には活発な質疑応答が行われ、日本とデンマークを比較して意見も交換。最後に本学部の阿部正昭教授が両講演のまとめを述べ、「今日得た学びを今後の人材育成に生かしていきたい」とまとめました。