大学院工学研究科機械工学専攻2年次生の岸本徹哉さん(指導教員=マイクロ・ナノ研究開発センター、工学部・木村啓志教授)がこのほど、日本機械学会若手優秀講演フェロー賞を受賞しました。同学会の講演会で優れた発表を行った26歳以下の会員に贈られる賞で、対象となったのは昨年9月7日から10日まで北海道大学で開催された「日本機械学会2025年度年次大会」での発表です。
岸本さんは「データ駆動による精巣組織培養条件の自動最適化に向けた大量培養観察システムの開発」をテーマに発表。この研究は、男性不妊症の原因の約8割から9割と報告される精子形成障害への理解や治療法確立に資する新たな実験・研究手法の構築を目的とするものです。奇形精子や分化成熟が停止した精子が発現する精子形成障害の治療法確立のためには、精子形成メカニズムの解明が必要です。精子形成はマウスの場合約35日間、ヒトの場合は約65日間の分化期間があり、近年は生体外での精巣組織培養による精子形成メカニズムの解明が試みられているものの、生体内に比べて精子形成率が低く、培養条件の最適化や実験や解析にかかる膨大な手間が重要な課題となっています。
岸本さんは木村教授の指導を受け、細胞培養観察装置BioStation CT(Nikon)と、独自の培養法であるMembrane Ceiling(MC)chip法を組み合わせた自動観察システムを構築し、精巣組織培養における条件最適化を効率的に行うためのデータ駆動型アプローチに取り組んできました。多数の実験条件を並列に検討するために大量なデータ取得が必要ですが、現状のMC chip法では取得が困難です。岸本さんは課題解決のために、一つのチップあたり従来の4倍の精巣組織を同時に培養可能な新たなチップ「MC chip/quattro」を開発。BioStation CTと統合することで、最大720組織の同時培養・観察が可能な大量培養観察システムを構築しました。35日間の精巣組織培養実験の結果、従来のMC chipを用いた精巣組織培養と比較して同等の培養成績が得られることが判明し、精巣組織の大量培養手法を実現しました。
「この手法により、データ駆動に向けたビッグデータの取得や実験コストの削減が可能になりました。既知データの実験結果を機械学習させてAIを構築、さらに実験を重ねて得たビッグデータをAIに解析させるサイクルにより、AI駆動での精巣組織培養条件の自動最適化の実現や、さらにAI駆動型生命科学研究での精子形成メカニズム解明という大きな目標も見えてきます」と岸本さんは話します。「大学院で機械工学だけでなく、生命科学と情報科学、工学が融合した研究に携わり、厳しさや面白さを知りました。受賞は木村先生や先輩方、そして学外の共同研究者の方々の指導のおかげと感謝しています。大学と大学院での経験を生かし、今後は医薬品メーカーに就職してさらに研究に取り組みたい」と前を見据えています。
木村教授は、「岸本さんの研究は、生命科学分野でAIを駆使して“量が質を凌駕する”という新しい実験研究手法としてブレイクスルーを起こす可能性があります。AI全盛の現在から振り返ると、私たちは夜明け前から研究へのAI活用に取り組んできました。パイオニアとしての原動力は、研究室の先輩から脈々と連なる若手研究者の力です。後輩たちにも岸本さんの目覚ましい成長力を受け継いでほしい」と話しています。