2019年10月19日 特別編 ソーラーカーチーム準優勝の陰の立役者――日本から気象情報でサポート

10月13日に開幕した2019ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジで準優勝の結果を残した東海大学ソーラーカーチーム。太陽光の力だけを頼りに約3000kmにわたる長大で過酷なコースを自分たちで開発したマシンで走り切り、世界から集った強豪チームと互角以上の戦いを見せたその陰には、日本から送られてくる気象情報のサポートがありました。

東海大学高輪キャンパスにある情報技術センター(長幸平所長)では、気象衛星ひまわり8号が観測したオーストラリア周辺の画像を、気象庁からインターネット経由で受信し、ソーラーカーチームに通信衛星経由で配信しました。同センターでは毎回、チームを支援しています。ひまわりは10分間隔で観測を行っているため、雲の詳細な動きをとらえることができます。チームでは、走行中の指令車でこれらの画像を受信しますが、電波事情はけっして良好ではなく、伝送速度が低くなることがわかっています。そのため、高画質のデータを送っても、現地での受信に時間がかかっていては有効利用できません。情報技術センターでは画像を地域ごとに分割し、分解能もわざと落すことでデータ量を減らし、画像をスムーズに伝送するよう工夫しました。実際に、チームでは指令車で作戦を練る木村英樹監督(工学部電気電子工学科教授)や清水祐輝さん(大学院工学研究科電気電子工学専攻1年次生)らが、コントロールポイントなどの街中では携帯電話網で容量が大きい1㎞の高精細画像を受信し、コース上では通信衛星インマルサットBGANを使って、少ないファイルサイズの画像データを受信。雲の動きや天候などを予想し、走行ペースの決定などに役立てました。

また、情報理工学部情報科学科の中島孝教授が研究代表を務め、理学部数学科の山本義郎教授、山本研究室に所属する大学院総合理工学研究科総合理工学専攻2年次生の今田一希さんらが参画するチームTEEDDA(国立研究開発法人科学技術振興機構・平成24、27年度CREST採択事業)でも、気象情報サポートを実施しました。TEEDDAは分散協調型エネルギーマネジメントシステム(EMS)における重要な研究分野である地球科学と需要科学を基軸とし、さらにEMS全体で必要となる各種データを配信するためのデータインタフェースを保有。東海大学をはじめ、宇宙航空研究開発機構-東京大学(大気海洋研究所)、千葉大学、大阪大学、東大生産技術研究所、東京工業大学、情報通信研究機構(NICT)の合同チームで研究を推進しています。ソーラーカーチームのサポートは13年大会から始まり、今回で4回目となります。

今回は、人工衛星から得られる画像などのデータをもとに日射量の解析を中心とした気象情報を分析しました。人工衛星からの気象画像だけでは、太陽の角度などによって異なる日射量を正確に判断するのは難しく、満足な通信環境も整わないオーストラリアの荒野地帯では、この作業の難易度はさらに上がります。TEEDDAでは、BWSCのコースをとらえた衛星画像に写る雲の位置や通過予定時間などを分析し、各地点で1平方mあたりの日射量を解析。また、衛星データ解析システムから得られる気象情報を数値化しました。さらに、このデジタルデータを、山本教授と今田さんがコース上で活用しやすいよう「気温」「雨雲」「風の強さ」「雲の動き」の4パターンで可視化し、アニメーションや文章などに加工してチームへと伝達しました。情報技術センターの支援と同様に、現地では通信速度に制限があるためデータの容量を小さくするなど、チームの負担にならないよう送信時の工夫も重ねると同時に、チームとメッセージアプリで逐一連絡を取り合い、進路上の天候予測や他チームがいる場所の雲の動きなどをリアルタイムで知らせました。

ソーラーカーチームの準優勝という結果を受け、情報技術センターの長所長は、「我々の提供する衛星情報の最大限に活用し、上位に食い込んでくれました。チームの苦労が報われた結果だと思います」とコメント。中島教授も「強風などで難しいコンディションの中、無事に完走してくれてうれしい。準優勝は立派な成績であり、学生たちはこの成果を今後の学生生活をはじめ社会に出てからも生かしてさらに活躍してくれれば」と語りました。また、山本教授は、「開幕前日の12日は台風19号の影響で支援体制が整いませんでしたが、ちょうどオーストラリアは晴れて風もなかったので”そのまま行ってくれ”という気持ちでした。レース3日目から風が強くなり、気象データからの分析をチームに提供することができたので、心配なく走れる環境づくり役立てられたのかなと思います。上位チームのコースアウトもありましたが、東海大は福田紘大監督(工学部航空宇宙学科航空宇宙学専攻准教授)がボディの流体のシミュレーションを重ね横風の対策をしっかり行うなど、事前の準備をおこたらなかったことが結果につながったと思います。『総合力の東海大』に加わることができ、非常にうれしい」と語り、今田さんは、「貴重な経験をさせていただき感謝しています。傾向を分析したデータを現場の皆さんにうまく取捨選択していただきました。相手がどのような情報を求めているのか、どのように伝えたら分かりやすいかを考えながら作業したため、とても勉強になりました」と話しました。

木村監督は、「今大会が始まるタイミングで、日本では台風19号によって甚大な被害がもたらされましたが、その中でも情報技術センターとチームTEEDDAにはソーラーカーレースのために尽力していただけました。TEEDDAの山本先生、今田さんはサーバからのデータが届かない中でも金曜日から湘南キャンパスに泊まり込むなど必死に対応していただき感謝しています。また、情報技術センターも高精細画像と通信衛星インマルサットBGANに最適化されたデータを届けていただいたことで、常に的確な気象状態を把握することができました。このような支援のおかげで総合準優勝という結果を成し遂げられたと感謝しています」と語っています。