3年次生を対象にした「フィールドワーク演習」を開講しました

人文学部では7月から8月にかけて、アメリカハワイ州や大分県豊後高田市、北海道根室市などで「フィールドワーク演習」を開講しました。2022年度に新設した本学部は、文学や歴史学、人類学など人間が持つ多様な「価値」を考える人文学の根幹を受け継ぎながら、これからの社会で必要とされる多面的なリベラルアーツ(教養)教育を展開しています。今回のフィールドワーク演習は、「二十歳の遊学」をテーマに、各地の歴史や文化を五感で学び、キャリア設計に生かすことを目的にしています。学部1期生となる3年次生約80名が、長期間プログラム(実施先:ハワイ州、豊後高田市、根室市)と短期間プログラム(静岡県静岡市、南伊豆町、愛知県豊橋市など)のいずれかから希望する場所を選択して現地に滞在。行政職員や地域住民、教育関係者らと交流を深めながら多様な体験を積み、フィールドワークの手法を身に付けました。

7月1日から14日まで、ハワイ州で行ったフィールドワークには6名の学生が参加しました。現地の過去と現在を目で見て学び国際的な視野を養おうと、パールハーバーやポリネシアンカルチャーセンターなどを見学したほか、ワイキキビーチやダイアモンドヘッドをはじめとした観光地も訪問しました。また、学生それぞれが「食文化」「ファッション」「スピリチュアルスポット」などのテーマについて調査。滞在先となったハワイ東海インターナショナルカレッジ(HTIC)では英会話の授業も受講し、その学びを現地生活で活用して語学力を磨きました。11日には、フィールドワークの成果をスライドにまとめてそれぞれ英語で発表し、終了後にはHTICの吉川直人学長から修了証を受け取りました。

参加した望月礼恩さんは、「雄大な自然に囲まれながら現地の方々とたくさん交流し、一言では言い表せないほどの体験ができました。異国文化に触れるからこそ感じる日本の美しさや魅力にも気づき、視野が大きく広がりました」と振り返りました。引率したサリバン スーザン ローラ講師は、「初めて海外に足を踏み出す学生もいて、バスの乗り方や買い物の仕方など苦戦する場面も見られましたが、若い彼らにとっては失敗こそ成長につながります。今回の経験を財産に自分のアイデンティティーを大切にしながら、それぞれのキャリアを築いてほしい」と語り、加藤和美准教授(海洋学部)は、「英語を使わざるを得ない環境に身を置いて最初はストレスを感じたと思いますが、徐々に英語コミュニケーション能力がついてきたと思います。これからも自分の研究テーマについて、受け身にならずにチャレンジを続けてほしい」と話しています。

豊後高田市でのフィールワークは7月9日から8月23日にかけて実施し、期間中に14人の学生が参加しました。本学部のある静岡キャンパスと連携協定を結ぶ同市は、多様な移住・子育て支援策のもと、23年度までに移住者が4年連続で300人を超え、9年連続で転入者が転出者を上回る“社会増”を達成しています。学生たちはまず、市や教育委員会の協力のもと、本学部の斉藤雅樹教授が開発に携わったリゾート地「長崎鼻」の「パーフェクト・ビーチ」をはじめとした観光地を見学。海水浴場整備事業や里山ヘルスツーリズム事業について学びを深めました。その後、学生たちはそれぞれの研究テーマにそって調査を開始。自ら市職員にアポイントメントをとったり、地域住民や観光客に調査の概要を説明したりしながら、ヒアリングを続けました。7月19日には、市役所で第1回の成果報告会を実施。「観光地“昭和の町”の課題解決案」「豊後高田市のVチューバ―広報施策を学び、大学の広報に生かす」といった多彩な調査結果を報告しました。その後も学生たちは調査を続け、地元の高校生や本学の卒業生らとも交流をし、25日の最終調査報告会を経て一時的にフィールワークを中断。キャンパスのある静岡や地元に戻る学生もいる一方で、豊後高田市でアルバイトをしながら1カ月間滞在を続ける学生もいました。最終プログラムとなる8月21日からは、豊後高田市との観光施策を比べようと全国有数の温泉地を抱える別府市を訪問し、「地獄蒸し」や「別府八湯めぐり」を体験しながら、観光客誘致に必要な要素などを学びました。

約2カ月にわたって滞在した中村祥一朗さんは、「豊後高田市の人たちは常に優しく私たちを後押ししてくれました。人や自然の温かさに触れて、滞在前は縁もゆかりもなかった場所が、“第2の故郷”になりました」と話し、「期間中には、温泉水を使った新しい料理を生み出そうとさまざまな挑戦ができました。いつか名物になるようなメニューを生み出したい」と意欲を見せていました。学生たちの指導に当たった斉藤教授は、「できる限り自分で考え、行動し、評価を得ることこそ、フィールドワークの醍醐味なので、教員からのアドバイスはあえて少なくしました。プレゼンテーションでは、聴講した市職員や観光事業者をうならせる場面もあり、学生たちにとって自信につながったと思います」と話していました。

7月11日から31日には、学生5名が根室市でのフィールドワークに取り組みました。同市は静岡キャンパスと相互協力関係を結んでおり、学生たちは市が推進する「昆布漁業体験インターンシップ制度」を活用し、プログラムの前半に歯舞漁港でセリを見学したほか、漁協職員からのガイダンスや北方領土問題に関する研修などを受講。地域が主催するイベントや祭りにも参加し、地域住民と交流するとともに、漁業の人出不足問題や人口過疎問題への理解を深めました。18日から29日までは、学生が4軒の昆布漁家に泊まり込み、作業を体験。夜明け前から水揚げされた昆布を広げて干し、根切りや結束といった出荷作業など一連の工程を手伝い、昆布漁について学びました。

参加した井尻真帆さんは、「昆布漁の作業は難しさもありましたが、漁家の皆さんに優しく教えてもらい、とても勉強になりました。滞在中には美味しい食事も振る舞ってもらい、充実した日々を送ることができました。今回の経験を生かして、漁業問題の解決につながる研究を続けたい」と笑顔を見せていました。引率した川﨑一平学部長は、「根室市が抱える人手不足や地球温暖化による不漁といった課題は全国各地でも見られるため、この問題を実体験することは日本の漁業の未来を支える研究成果の創出につながります」と語り、「現地に向かう前、学生たちにとっては見ず知らずの家庭に入り、漁業を体験するので、苦労もするだろうと考えていました。しかし、全日程を終えた学生は、“この街で暮らしたい”と目を輝かせていて、本当にいい経験ができたのだと感じました。根室市はもちろん、各地で学生たちを温かく迎えて、フィールドワークに協力してくださった方々に心から感謝しています。これからもキャンパスのある静岡市はもちろん、さまざまな地域と連携して教育プログラムの充実を図り、地域に貢献する学部を目指していきます」と話しています。