湘南キャンパスで8月7日から11日まで、「40th International Human Science Research Conference(IHSRC 2023 Tokyo)」(第40回人間科学研究国際会議)が開催されました。文明研究所の田中彰吾所長が主宰したものです。IHSRCは、現象学を用いた質的研究に取り組む研究者が集う国際会議です。今回は、「Intercorporeality: (Re) Connecting people beyond social distance」(間身体性~社会的距離を超えて人々を結び直す~)をテーマに実施。世界11カ国から心理学、看護学、教育学、社会福祉学などの研究者ら約120名が参加し、講演やシンポジウム、研究発表が行われました。
田中所長は2日目の8日に、「もう一つの心理学の歴史:現象学的観点から」と題したシンポジウムを、心理学者の渡辺恒夫氏(東邦大学名誉教授)と共同で企画。哲学者の村田純一氏(東京大学名誉教授)、渡辺氏とともにスピーカーとしても登壇しました。このシンポジウムは、実験科学の手法に力点をおいて研究されてきた心理学の歴史を、19世紀末の揺籃期まで遡って見直そうとするものです。
身体性に関連する心理学と哲学を研究している田中所長は、「現象学的認知科学の可能性」と題して講演。現象学の影響を受けて発展してきた身体性認知科学(身体の視点から人の認知の働きや性質を理解しようとする学問)の歴史を概説しました。さらに、“心”は個々の内面に閉ざされたものではなく、身体を通じて環境に働きかける行為の中に埋め込まれており、人と人との「あいだ」というソーシャルな場所にあるものとの持論を紹介し、「心が内なるものという考えは、近代的な心理学の産物といえます。心理学の歴史を描き直すことができれば、心理学は、より人間の実態に即した学問になると考えます」と述べました。最後に、心理学者のスコット・D・チャーチル氏(アメリカ・ダラス大学教授)が、本シンポジウムの意義と新たな心理学の発展への期待を語りました。参加者からは多くの質問が寄せられ、終了後も登壇者と参加者が熱心に意見を交わす姿が見られました。
田中所長は、「今回のIHSRCは、コロナ禍で遠ざけられてきた対面の身体的なつながりを回復する機会にしたいと願い、間身体性をテーマに取り上げました。連日、熱を帯びた議論が交わされ、カンファレンス・ディナーにも60名以上が参加するなど、“社会的距離を超えて人々を結び直す”という目的を実現できたと感じています。参加・協力してくださった皆さまに感謝します。今後も人間科学分野の発展に貢献できるよう、世界の研究者と連携しながら身体性認知科学の研究を深めていきます」と話していました。