長尾教授らの研究グループが地震予測に要する先行現象に関する論文を発表しました

東海大学海洋研究所・地震予知研究センター長の長尾年恭教授らの研究グループはこのたび、英科学誌Natureグループのオープンアクセスジャーナル『Scientific Reports』誌に論文を発表しました。東京学芸大学教養学部自然科学系物理科学分野の織原義明専門研究員、鴨川仁准教授とともに執筆したこの論文は、2011年3月の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の発生約3カ月前から、岩手県大船渡市にある五葉温泉の源泉(地下水)の水位が10m以上、水温が1℃~2℃低下していたことを発見したというものです。

巨大地震の発生予測は喫緊の課題ですが、予測に必要となる先行現象の事例数は少なく、より多くの先行現象をとらえることが非常に重要になります。とりわけ沖合で発生した東日本大震災の場合、大多数の専門家の同意が得られている先行現象はわずかです。長尾教授らは既存の温泉に着目し、大船渡市郊外の五葉温泉において源泉井戸(約2㎞深)の水位と水温の数値データが存在していたことを見いだし、前述のような発見に至りました。

この成果のもう一つの特徴は、科学目的ではない数値記録(準科学データ)を調査発掘して評価できる形に変換し、科学データとして用いたことです。以前より、地震に先行する地下水変化は、五葉温泉のようにきわめて深い井戸ならば同定しやすいとみられていました。しかし、深い井戸のボーリングには膨大な経費がかかり、多点ボーリングは発生頻度が低い巨大地震の地下水先行研究において、費用対効果の点で非現実的であるとされています。そのため定常的な科学的地下水観測は、巨大地震の発生頻度が比較的高い東海、南海地域に集中しています。本研究の結果は地下水に限らず研究目的以外で記録されている準科学データの活用につながるとみられ、研究効果を高める新しい手法の提案にもなりました。

論文は、11月5日から公開されています。
http://www.nature.com/srep/2014/141104/srep06907/full/srep06907.html
SCIENTIFIC REPORTS, 4 : 6907, DOI: 10.1038/srep0690, 1-6, 2014.