マトリックス医学生物学センター・稲垣豊教授らによる肝硬変治療の鍵となる新規物質の発見に関する論文がアメリカ肝臓病学会誌『Hepatology』に掲載されました

2019年11月19日

東海大学大学院医学研究科マトリックス医学生物学センターの稲垣豊センター長(医学部医学科基盤診療学系先端医療科学教授)と中野泰博・元特定研究員(現・東京大学定量生命科学研究所特定研究員)らの研究グループが、肝硬変の前段階である肝線維症の治療に有効な分子として、転写因子「TCF21」を発見。その成果をまとめた論文が、9月24日付けでアメリカ肝臓病学会誌『Hepatology』に掲載されました。本研究は、文部科学省「平成27年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業『臓器線維症の病態解明と新たな診断・予防・治療法開発のための拠点形成』」(採択期間5年間)の一環として取り組んできたもので、肝硬変の新たな治療薬の開発につながると期待されています。

肝臓は、肝炎ウイルスの感染や過剰なアルコール摂取による炎症により線維化(肝線維症)し、やがて肝硬変や肝がんに至ります。国内では約50万人が肝硬変と診断されており、近年は、高カロリー・高脂肪食の摂取や運動不足などを原因とする非アルコール性脂肪肝炎による肝硬変や肝がん患者の増加が懸念されています。現在、肝硬変の前段階である肝線維症治療の候補薬剤の研究が進められていますが、有効な治療薬の開発には至っていません。

肝線維症は、肝臓内のビタミンAの貯蔵や血流調節などの機能を持つ「肝星細胞」が炎症により活性化して筋線維芽細胞に変化し、コラーゲンをはじめとする線維成分を過剰に産生することにより発症します。肝星細胞は、肝臓の炎症により筋線維芽細胞に変わりますが、炎症がおさまるとゆっくりと肝星細胞に戻る(脱活性化)ことが最近の研究でわかってきました。稲垣センター長らはこの肝星細胞の性質に注目し、脱活性化を誘導する分子の存在を予測。マウスの約2万5千の遺伝子の中から胎児期における肝星細胞の成熟に重要な13遺伝子を選択して解析した結果、正常な肝星細胞で強く発現し、筋線維芽細胞に変化した活性型の肝星細胞で発現が著しく低下する分子としてTCF21を見出しました。

肝硬変モデルマウスの筋線維芽細胞にTCF21の発現を誘導すると、活性型の状態から正常に近い肝星細胞への脱活性化が速やかに起こり、肝線維症の症状が顕著に改善。同様の効果は、非アルコール性脂肪肝炎のモデルマウスでも証明されました。また、肝硬変を発症したヒトの活性型肝星細胞でもTCF21の発現が顕著に低下していたことから、臨床においてもTCF21発現誘導による治療の有効性が期待されます。

稲垣センター長は、「この研究は肝線維症の発症を防ぐのではなく、発症した肝線維症を正常な状態に戻すという全く新しい発想から生まれました。11月8日から12日までマサチューセッツ州ボストンで開催されたアメリカ肝臓病学会でも本成果を発表したところ、大きな反響があり手応えを感じています。研究グループでは、肝臓のほか肺や腎臓、心臓などの線維症にもTCF21の発現異常がかかわっていることを見出しており、複数の臓器の線維症に共通して働く治療候補物質の選定作業に着手しました。先進生命科学研究所などとも連携して創薬を加速させたい」と話しています。

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