第9回テニュアトラック制度シンポジウム「芸術作品と科学」を開催しました

東海大学創造科学技術研究機構では12月1日に、東京・霞が関の東海大学校友会館で第9回東海大学テニュアトラック制度シンポジウム「芸術作品と科学」を開催しました。本機構の田口かおり講師を中心に、歴史研究や美術史研究などさまざまな国や立場から「科学と美術を切り結ぶ」ことで新たな研究の地平を切り開いている専門家が集い、それぞれの研究成果と展望を共有することを目的とし、国内外の研究者や本学教職員、市民ら約100名が参加しました。

開会に当たって山田清志学長があいさつに立ち、「本学ではテニュアトラック制度の下にさまざまな分野の研究者を迎えています。本日は、その一人である田口先生のネットワークで芸術と科学に関する専門家や有識者の皆さんが集いました。シンポジウムを通じてその知見を共有し、芸術と科学の接点を考える機会にしたいと思います」と期待を寄せました。

続いて、田口講師の司会進行で各国の専門家が登壇。メルボルン大学リサーチ・フェローのダイアナ・テイ氏は、絵画の保存修復調査と分析における紫外線や赤外線を使った先端的分析手法について解説し、少ない予算でも高度な研究を実現する具体的な対策について紹介しました。続いて大英博物館科学研究部門ポストドクトラル・フェローのディエゴ・タンブリーニ氏が、世界有数のコレクションを誇る大英博物館における保存修復部門と科学調査部門の業務について解説。自らの研究テーマである中国・敦煌で発見された織物の分析について語りました。また工学部光・画像工学科の室谷裕志教授は、テレビ局から依頼されて取り組んだフェルメールの作品に見られる「光」の表現を分析した際の内容を紹介。ヒトの視覚や色覚、絵画に用いられる遠近法や空気感の表現方法などについて解説しました。

休憩を挟んだ後半は、計測計や分析計の製造、販売などを手掛け、大学や企業と共同研究などに取り組む株式会社堀場テクノサービスの小野田麻由氏が登壇。蛍光X線分析装置やRaman分光装置、ph計など同社が取り扱う分析機器について紹介するとともに、同社が取り組んだ、14世紀に後醍醐天皇から家臣に与えられたと言われる「日の丸」の旗やゴッホの『アザミの花』という作品の分析結果について解説しました。ゴッホ美術館専任修復士のオダ・ファン・マーネン氏は、オランダ・アムステルダムにある同館の概要を紹介するとともに、所蔵絵画をめぐる科学研究の歴史を紹介。カンヴァスをめぐる研究や、布目や織の自動測定、下地や顔料の分析などについて研究成果を披露しました。最後に田口講師がゴッホ作品の調査について語り、神奈川県・ポーラ美術館に収蔵されている『草むら』をはじめとする油彩画3作品を対象に実施した光学調査の成果を報告。作品上に新しく乗せられた絵具などが確認されず修復の手が入っていないことや、ゴッホが使用した絵具の種類や制作過程、現在に至るまでに絵画がたどってきた来歴について紹介しました。
質疑応答では「経験豊かな研究者であれば、肉眼で顔料の種類を見抜けるものでしょうか?」など熱心な質問が多数寄せられ、登壇者が一つひとつ丁寧に回答していました。最後に本機構の長幸平機構長(研究推進部長・情報理工学部教授)が、「今回は学外から100名をこえる多くの方にご来場いただけました。本学は文理融合を標榜しており、科学と芸術を結びつけることの重要性も再認識しました。今後とも、本学ではテニュアトラック制度を堅持し、若き研究者の育成を図ってまいります。皆様のご理解とご支援をよろしくお願いします。」と述べて閉会となりました。

登壇者と発表テーマは下記の通りです(発表順)

ダイアナ・テイ氏(メルボルン大学リサーチ・フェロー) 「費用対効果の高いマルチスペクトル画像による作品来歴の調査」
ディエゴ・タンブリーニ氏(大英博物館科学研究部門ポストドクトラル・フェロー) 「博物館における天然染料分析の戦略」
室谷裕志教授(東海大学工学部光・画像工学科) 「光学と芸術」
小野田麻由氏(株式会社堀場テクノサービス分析技術本部分析技術センター分析エンジニア) 「科学技術が浮き彫りにする作品の制作過程」
オダ・ファン・マーネン氏(ゴッホ美術館専任修復士) 「ファン・ゴッホを調査する」
田口かおり講師(東海大学創造科学技術研究機構) 「ファン・ゴッホ作品の再構成―来歴と色」

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