建築都市学部では5月15日に湘南キャンパスで、構造家・佐々木睦朗氏による公開講演会「構造デザインの視点から都市や建築を考える」を開催しました。佐々木氏は1980年に佐々木睦朗構造設計事務所を設立し、91年に「美和ロック玉城工場」(意匠設計:黒川雅之)で構造設計者の優れた業績を表彰する第1回松井源吾賞を受賞。磯崎新、伊藤豊雄、妹島和世+西沢立衛/SANAAら日本を代表する建築家と協働し、数々の構造設計を担ってきました。「せんだいメディアテーク」(意匠設計:伊東豊雄)、「金沢21世紀美術館」(意匠設計:SANAA)など多くの作品で各賞を、2023年には空間構造における最高賞「Torroja Medal(トロハメダル)」を受賞。24年12月にその集大成となる作品集『佐々木睦朗作品集1955-2024』を上梓するなど、日本における構造設計の第一人者として活躍しています。今回の講演会はオンラインでも配信し、約800名が参加しました。



佐々木氏は自身のテーマである「構造の美学と自由の追求」を支える理論として、構造(力学・原理)を本質論、構築(工学・技術)を実体論、建築(空間・造形)を現象論とする3つの概念を設計段階で常にフィードバックする手法を図解で説明。丹下健三による作品群の構造設計を手がけた坪井善勝の言葉「構造の美は力学的合理の近傍ある」を座右の銘として紹介し、「学生時代に国立代々木競技場(丹下・坪井設計)の大空間に深く感銘し、この道に入りました。ものごとに囚われず自由に考えるのが私の構造設計における美学ですが、一方で自由とは非常に厳しい判断が求められるものです。プロフェッサー・エンジニアとして恩師らの設計理念を継承しつつ歴史的検証とヴィジョンの展開をふまえ、理論的な構造デザインと自然な構造美の探求を自らのミッションと考えています」と話しました。続いてミース・ファン・デル・ローエやアントニオ・ガウディといった著名な建築家の作品をひも解きながら建築構造の歴史に触れ、国際コンペを中心に手掛けてきた自身の作品群を年代に沿って紹介。阪神淡路大震災の1週間後に伊東豊雄氏から届いた「せんだいメディアテーク」のスケッチに大きな衝撃を受け、「ガウディの有機的なストラクチャーとミースの重力を感じさせない建築観を融合させようと、スケッチを前に格闘し、さまざまな構造設計のアイデアを駆使して実現。東日本大震災でも被害は最小限に抑えられました」と話しました。


後半は岩﨑学部長と対談し、学生からの質問にも回答。佐々木氏は自身の体験を振り返りながら丁寧に答え、最後に学生に向けて、「歴史を学び、建築の本質を見る目を養ってください。そして時空を超えて自分が“これだ!”と思う作品を見つけて、これから何十年もかけてそれに近づくよう努力を重ねること。考え続けると、いつか自分の中にマグマが貯まるようにインスピレーションが噴出してきます」とエールを送りました。