4月3日、文明学科では新入生71名を迎え、2025年度の新入生ガイダンスを開催しました。新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。
今からたった30年前、Windows95というパーソナル・コンピュータ(パソコン)が一般社会・家庭に普及し始めました。その直後に携帯電話も徐々に普及し始め、それがせいぜいこの15年で電話・カメラ付き携帯型簡易パソコン(スマホ)に変わりました。これから先、様々な分野・領域でAIの活用が当たり前のことになっていくでしょう。ただし、よいことにばかり使われるわけではありません。これまでも、そうであったように。そして、人間によい影響を与えるとは限りません。これまでも、そうであったように。
新自由主義のグローバル化は浸透し、ほんの一握りの人間が巨額の富を得、社会の格差は広がりました。生物多様性の減少や地球温暖化の問題が叫ばれる一方で、「経済発展」の名目のもとで森は切り開かれ続けています。世界中の国家が担う学校教育では、他者性・差異を認め合おうと今この瞬間も子供たちに教えを施し、国連・国家主導でSDG’sの普及も進められています。一方で、強力な破壊兵器が空から降り注いでくる地域もあります。これを主導しているのも、国家です。そしてその兵器を売って、誰かが大きな利益を得ているのも確かなことでしょう。
都合のよいパフォーマンス、小ぎれいな言葉、怪しい論理性、本物かどうかわからない画像・映像、パソコン・スマホを通して飛び交う無限かつ真偽不明の情報….。いったい、何が本当のことで、何が嘘なのか。誰かにとっての本当のことは、誰かにとっての嘘なのか。ならば、本当のことはないのか….。何を信じてどう自身を構築すればよいのか、本当に大切なことはいったい何なのか、おそらく誰もが考え込んでしまいます。現代社会は、こういう不可思議な特徴をもつにいたりました。我々人間の生き物としての特徴は、さほど変化していないにもかかわらず。
状況を見極め、考え、判断するのは、自分自身にほかなりません。ならば、しっかりと見極め、考え、判断できる教養を備えることこそが重要になるのは、自明の理です。この教養は、自分だけが都合よく渡り歩くための浅い知識やhow toもの本で語られるマニュアル的思考を意味するわけではありません。もっと広い視野で、人類・人間がやってきたこと/やっていること/やろうとしていることを多角的かつ冷静に見つめ、徐々に得られていく我々人間理解のための知性です。
その知性・教養を深め、自身を見つめ、そして一緒に生きている他者・存在と誠実に向き合うことにより、思いやり・優しさに満ちたいわば「真(まこと)の知恵」とでもいえる思考が、培われていくことでしょう。それが芽生え始めると、我々の心は本当の意味で逞しくなっていくはずです。そうした心が、新たな時代・豊かな未来を切り開いていくことでしょう。
文明学科において、人間をめぐる多様な学び、真実を追求しようとする学問的思考を通し、みなさんが豊かに成長されることを期待しています。

文明学科教授
大平秀一