
医学部医学科基礎医学系分子生命科学の中川草准教授(総合医学研究所、マイクロ・ナノ研究開発センター)と名古屋大学大学院生命農学研究科の北尾晃一JSPS特別研究員、一柳健司教授の研究グループがこのほど、ゲノム領域を飛び回るジャンピング遺伝子(トランスポゾン)と他の遺伝子の融合による進化の仕組みを発見。その成果をまとめた論文が5月9日に、アメリカの科学誌『Genome Research』に掲載されました。
トランスポゾンは、自分のゲノム配列の一部を切り取ったりコピーしたりして別の配列にジャンプ(転移)する遺伝子です。さまざまな病気の原因になる一方、生物の進化を促す可能性があると考えられていますが、その全貌は解明されていません。研究グループはトランスポゾンによる遺伝子進化の痕跡を調べるため、ヒトをはじめ多くの脊椎動物に含まれるトランスボゾン「LINE-1」に着目し、約600種の鳥類・爬虫類のゲノムを解析しました。その結果、LINE-1が「ミオシン軽鎖4」と呼ばれるタンパク質の遺伝子に転移した結果、新たな融合タンパク質「ライオシン」が生み出されたことを発見。ミオシン軽鎖4は心臓、ライオシンは精巣にそれぞれ特異的に発現しており、機能的な違いも示唆されました。
このほか、ライオシンは鳥類と爬虫類のみに存在する一方、ヘビ類や新顎類の鳥類など一部のグループでは失われていることも確認。さらに、脊椎動物のゲノムから合成が予測されたタンパク質のデータベースをコンピュータで解析し、魚類や哺乳類における3つのLINE-1融合遺伝子の同定にも成功しました。
ゲノム科学が専門の中川准教授は、「トランスポゾンと他の遺伝子の融合による新たなタンパク質の誕生を、ゲノム解析により明らかにできました。約2億8000万年前の古生代に生まれたと考えられるライオシンが現在まで受け継がれた理由や、一部の生物で失われた原因を、その機能と併せて解析するとともに、脊椎動物におけるトランスポゾンと関連する遺伝子の探索を継続し、生物の進化や多様性を生み出すメカニズムの解明につなげたい」と話しています。
※『Genome Research』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://www.genome.org/cgi/doi/10.1101/gr.280007.124