理学部化学科の荒井講師と岩岡教授の研究グループが持続型の性質を持つ新規インスリンの化学合成に成功しました

2017年04月12日

理学部化学科の荒井堅太講師と岩岡道夫教授らによる研究グループが、糖尿病の治療薬としての応用に期待される新しいインスリン製剤(セレノインスリン)を化学合成することに成功。セレノインスリンは天然由来のものに比べて、インスリン分解酵素に対する耐性が高いことから長時間にわたって体内で循環・作用する「持続型(持効型)」の性質を持つことが期待されます。この研究は、東北大学多元物質研究所の稲葉謙次教授や大阪大学蛋白質研究所の北條裕信教授らと進めてきた共同研究の成果で、成果をまとめた論文は4月10日付けで国際科学雑誌「Angewandte Chemie International Edition」電子版に掲載されました。

糖尿病の患者は世界で4億人をこえると言われており、インスリン製剤は患者の命をつなぐ唯一の薬剤として用いられています。その一方で、患者は一日に何度も製剤を体内に皮下投与しなければならず、肉体的・精神的に大きな負担となってきました。そうした中、
体内に存在するインスリン分解酵素に対して顕著な分解耐性(分解されるまでの時間が長い)を示す新しい新規人工インスリンを開発したことで、将来的には患者の投薬負担を減らせることができる新規製剤開発につながるものと期待されます。

インスリンは2本の異なるポリペプチド鎖(A鎖とB鎖)が、双方に含まれる硫黄原子(S)同士の橋渡し役を果たす「ジスフィルド結合」によって結びついています。これまでにも、A鎖とB鎖を人工的に結びつける研究が行われてきましたが、それぞれに含まれる硫黄同士が結合してしまい、インスリンはうまく合成できていませんでした。今回の研究では、A・B両鎖の硫黄原子の一つを反応性の高いセレン原子(Se)に置き換えることで、両鎖を「ジセレニド結合」で架橋したセレノインスリンの合成に世界で初めて成功しました。タンパク質の立体構造を観察するX線結晶構造解析によって分析したところ、天然のインスリンとほぼ同じ立体構造を持っていることを明らかにしました。また、細胞を使って天然のインスリンとの生理活性を比較したところ、セレノインスリンはインスリンとしての生理機能を保持していることが判明しました。しかしながら、腎臓に含まれているインスリン分解酵素を使った実験では、驚くべきことに、天然のインスリンよりも分解速度が著しく遅いことが明らかになりました。

荒井講師は、「持効型インスリンの開発研究はこれまで、天然のインスリンあるいはその類似製剤に追加処理を施して体内に循環する速度をコントロールする手法が主に用いられてきました。またインスリンは体内で合成される機構をまね、遺伝子組み換え技術を使った大腸菌や酵母にインスリンを発現させる手法が用いられてきました。今回、それ自体が持続性を持った新しいインスリン製剤を化学合成によって生み出せたことは、創薬の新たな一歩を開くものだと考えています。この製剤が実用化できれば患者さんの負担も大きく減らすことができると期待しています」とコメント。岩岡教授は、「糖尿病には、食後の血糖値が急激に上昇するタイプの人や全体的に体内のインスリン分泌量が不足している人などさまざまなタイプがあります。持効型インスリンの人工合成が可能となったことで、さまざまなタイプに適合したインスリン製剤の開発への道も見えてきました。今後も実験を重ね、今回生み出したセレノインスリンの性質を検証していきます」と話しています。

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