生命化学科の三橋講師と学生が執筆した論文が国際ジャーナル「Biology Open」に掲載されました

工学部生命化学科の三橋弘明講師と同研究室に所属する大学院工学研究科応用理学専攻2年次生の石丸悟史さんが執筆した論文「Functional domains of the FSHD-associated DUX4 protein」が生物学に関するオンライン雑誌「Biology Open」2018年4月号(4月28日発行)に掲載されました。

この論文は、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)の原因遺伝子である「DUX4」が、病気を引き起こすメカニズムの一端を明らかにしたものです。FSHDは10万人に一人がかかるといわれている難病で、顔面や上腕部の筋肉の萎縮を招きます。幼少期から高齢者まで幅広い年齢で発症する可能性があり、DUX4遺伝子が原因であることがわかっているものの効果的な治療法はありません。三橋講師と石丸さんは、DUX4遺伝子の一部を改変した15種類の変異体を作製。ヒトの細胞を用いた独自の実験系(手順)を用いて、それぞれの遺伝子から産生される改変DUX4タンパク質の毒性と他の遺伝子を活性化させる働きの相関関係を分析し、活性のある変異体だけが細胞を壊死させる毒性を持っていることを解明しました。さらに、末尾にある約20個のアミノ酸残基を欠失させると、DUX4による毒性を抑制できる可能性があることを明らかにしました。

三橋講師は、「FSHDは世界的に患者の多い筋ジストロフィーの一つである一方、DUX4が原因遺伝子であると解明されたのが2010年とごく最近のことであるため、研究が遅れています。今回の研究によって、DUX4の毒性を担うタンパク質内の機能領域を特定できたことは、FSHDの治療法確立や治療薬開発に向けた重要な指標を示せたと考えています。この研究のように、遺伝子工学はまだわかっていない遺伝子の機能を解き明かし、医療をはじめとしたさまざまなバイオの分野に貢献することのできる非常に魅力的な学問分野です。ヒトのDNAはすべて解読されたと言われていますが、実際は全体の3割程度しかその役割が解明されていないため、未知の領域はまだまだ多く残っており “これから”の学問分野とも言えます。今後も学生たちと協力して、謎に挑んでいきます」と話しています。

石丸さんは、「これまで3年間取り組んできた成果が、論文審査のある評価の高いジャーナルに掲載されたことは素直にうれしく思います。私自身はもともと、生き物の設計図である遺伝子について学びたいと思い、生命化学科に入学しました。今回の論文では、DUX4遺伝子の活性を抑えるための指標を示せたと考えており、今後はより細かい分析を進めたいと思っています。将来は、学科と研究室で学んできたことを生かして、遺伝子工学や抗体開発に取り組む研究者を目指します」と話しています。

Biology Open掲載_525.jpg