大学院工学研究科の学生が執筆した論文が国際ジャーナルに掲載されました

大学院工学研究科応用理科学専攻を今年3月に修了した関侑平さんと木村勇輝さん、森凌太郎さん(指導教員=工学部材料科学科・高尻雅之教授)が執筆した論文がこのほど、それぞれ国際ジャーナルに掲載されました。高尻教授の研究室では、自然界で発生するわずかな温度差を電気に変換できる熱電素子の研究に取り組んでおり、今回掲載された論文(論文の掲載誌名とタイトルは原稿末尾参照)は、いずれも新たな熱電素子の材料や加工法、性能の計測方法に関する研究です。

関さんは、カーボンナノチューブ(CNT)を使った新たな熱電素子の研究成果を発表しました。CNTを使った熱電素子はレアアースを使う従来の素子よりも環境負荷が少ないことから高い期待が寄せられていますが、プラスの電気を発生させるP型の開発は進んでいるものの、マイナスの電気を生むN型を作る技術が確立されておらず、実用化の壁になっていました。今回の研究では、CNTの溶液中に界面活性剤を混ぜて加工することで、約2週間N型の性質を保持できることを発見。その後P型になってしまったものも再加熱するとN型に戻る性質があることを発見しました。「一度生成した熱電素子を再加熱するというアイデアは、熱電学会に参加した時の質問がきっかけで生まれたもので、学外の方から得られた刺激を結果につなげることができて本当によかったと思います。個人的には“もっと研究を進めたい”という思いもありますが、高尻先生のもとで自由にできたことがこうした結果につながったのだと思います。研究はやればやるほど面白くなり、どんどんのめりこんでいく中でいろいろな領域に視野も広がったと思います」とコメントしています。

木村さんは、ビスマステルルセレンという合金を使った熱電素子の加工技術に関する成果を発表。研究室ではこれまでも原材料のセレンやテルルを190℃程度で合成すると正方形のナノプレートの中央に約20 nmの穴が空き、性能が向上することを明らかにしていましたが、原材料の組成比率を変えることでさらに高い性能が得られる成果を発表しました。「必ず正解のわかる数学の問題とは違い、研究では実験結果をベースに、さまざまな資料や自分なりの考察をパズルのように組み立てる面白さがあります。私自身もともと環境問題に興味があってこの研究室に進んだのですが、今回の論文でもこれまで研究室で取り組んだことのない新しい着想を導入し、結果につなげられたことに達成感を得られました。企業に入ってからも新しい技術の改善に携わり、環境分野の発展に貢献したい」と話しています。

また森さんは2本の論文を発表。『Applied Physics Express』に掲載された論文では、厚さ数十nm程度のナノプレートの熱伝導率を計測する手法を提案。これまでナノプレートの熱伝導率を計測する場合には、複数枚のプレートを押し固めて一定の厚さを持たせて計測する方法が用いられてきましたが、その手法では1枚ずつの性能を予測値でしか計測できない問題がありました。新しい手法は、薄膜の性能計測で一般的に用いられている3オメガ法を改良し、ナノプレート1枚ごとの性能を測定することを可能にしました。『Journal of Alloys and Compounds』掲載の論文では、ナノプレート薄膜の電気伝導率を高める新たな加工技術を提案。ビスマステルル合金を使ってナノプレート薄膜を製造する場合、六角形の薄膜同士の間にすき間が生じて電気が流れにくくなってしまうという欠点がありました。今回の研究では、ナノプレート薄膜を溶液に浸す手法を用いて薄膜間にメッキ処理を施すことで導電性能が飛躍的に向上することを明らかにしました。「材料科学科には、熱電素子だけでなく、幅広い材料科学分野の研究室があり、その中から自分に合った研究室を選べるのがよいところだった感じています。研究室に入ってからは、試行錯誤と一喜一憂の日々でしたが、その中で熱分野の魅力や奥深さを実感できましたし、自分なりに実験と考察を重ねる面白さも体感できました。人工知能が発達するこれからの時代では、高い専門性と発想の柔らかさが大切になると思います。これからも大学で身に着けたそうした姿勢を大切に、自分にしかできないことを見つけ、挑んでいきたい」と話しています。

【掲載雑誌と論文タイトル・著者一覧】
関侑平さん
タイトル:Facile preparation of air-stable n-type thermoelectric single-wall carbon nanotube films with anionic surfactants
掲載誌:Scientific Reports 10, 8104 (2020) (IF = 4.12)

木村勇輝さん
タイトル:Solvothermal synthesis of n-type Bi2(SexTe1-X)3 nanoplates for high-performance thermoelectric thin films on flexible substrates
掲載誌:Scientific Reports 10, 6315 (2020). (IF = 4.12)
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-020-63374-0

森凌太郎さん
タイトル:Measurement of thermal boundary resistance and thermal conductivity of single-crystalline Bi2Te3 nanoplate films by differential 3ω method
掲載誌:Applied Physics Express 13,035501 (2020). (IF = 2.77)
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.35848/1882-0786/ab6e0e

タイトル:Improved thermoelectric properties of solvothermally synthesized Bi2Te3 nanoplate films with homogeneous interconnections using Bi2Te3 electrodeposited layers
掲載誌:Journal of Alloys and Compounds 818, 152901 (2020). (IF = 4.18)
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0925838819341477