大学院体育学研究科では1月26日に、「2022年度第3回健康・スポーツ科学セミナー」をオンラインで開催しました。このセミナーは、学内外から健康やスポーツ科学の専門家を招き大学院生や教職員に知識の幅を広げてもらおうと、年に4回開催しているものです。今回は、一般財団法人アグリオープンイノベーション機構でプロデューサーを務める慶應義塾大学SFC研究所上席所員の山田クリス孝介氏が、「ストレスを測る~メンタルストレスの客観的評価に向けて~」をテーマに講演しました。当日は、大学院生や体育学部をはじめとする学生、教員ら約40名が参加しました。
山田氏は、はじめにストレスの影響や向き合い方について、「外部環境からの刺激によって起こる歪に対する非特異的反応がストレスです。さまざまな要因によって引き起こされますが、いざストレスを感じた時にどのように対処したらいいのか分からない人が多いと思います。そこで、ストレスを客観的にデータとして計ることで、物事や事象に対するアクションを起こすことができます」と語りました。続いて、アメリカの心理学者であるトーマス・ホームズと内科医のリチャード・レイが提唱した社会的再適応評価尺度(ライフイベント尺度)について解説。また、医学用語としてはじめてストレスという言葉を使用した、ハンガリー系カナダ人の生理学者ハンス・セリエの論文「ストレス学説」やストレスを感じる3つの要因「制御可能性」「予測可能性」「持続時間」について説明しました。その後、身体的反応の1つである「闘争・逃走反応」や血行力学の観点から、ストレスに対する心臓血管反応や内分泌系の反応など、人間の生理的反応について語り、副腎皮質から分泌されるホルモンでメンタルストレスに対して反応することから「ストレスホルモン」とも呼ばれるコルチゾールの簡便な測定方法や急性ストレスに鋭敏に反応する特徴などを説明しました。さらに、出来事が生じた場合の捉え方がストレスに大きな影響を与え、それにより対処行動が決まると提議したアメリカの心理学者リチャード・ラザルスの「認知的評価理論」についても解説しました。
最後に、山田氏は「自覚されていないストレス」の存在について語り、「急性心筋梗塞(AMI)の方178名にインタビューした際に、『自分はストレスとは無縁』といった考えや回避的態度を示す方が多く見られました。あくまで心理的なものとして捉えてしまう主観的なバイアスがかかっているのです。ストレスは時には命を左右する危険性を秘めているので、自覚を持って客観的に捉えた対処が大切です」とまとめました。