札幌キャンパスでは8月9日に、東海大学公開講座「実況担当アナウンサーから学ぶ プロ野球観戦を100倍楽しむ方法」を開催しました。スポーツ実況を担当するテレビ北海道の現役アナウンサーである大藤晋司氏を講師に迎え、アナウンサーがスポーツのどの場面に注目し、どのように表現しているか、過去の実況から放送形式やスポーツ種目の違いによるスタイルの変化、トレンド、歴史的背景に関する解説などを通じて、スポーツ観戦の楽しみ方を広げてもらうことを目的としました。

当日は、国際文化学部地域創造学科の学生や地域住民、教職員ら多数が参加。初めに本キャンパスの社会教育活動委員長を務める高橋正年准教授(国際文化学部)があいさつで講演への期待を述べ、本講座を企画した植田俊准教授(同)が大藤氏の経歴を紹介しました。続いて登壇した大藤氏は、野球放送の歴史と技術について詳細に解説。1925年にラジオ放送が始まり、その2年後に野球実況が開始されたことを説明し、「この最初の野球中継は第13回全国中等学校野球大会(現在の全国高校選手権大会)で、NHKのアナウンサーが一人で全21試合を実況した歴史的な出来事でした。これが日本のスポーツ中継の始まりであり、野球実況が日本の放送文化の重要な一部となっていきました」と話しました。
さらに、スポーツ実況の基本構造を「同時通訳」「分析・予測」「トークショー要素」と説明。「スポーツ実況の目的は少しでも多くの人にスポーツを楽しんでもらうことです。そのためには正確な情報伝達と魅力的な表現のバランスが重要」と解説しつつ、実況者に求められる技術とマインドについて語り、「野球のルールは複雑で、他の球技とは違ってボールそのものではなく人の動きで得点が入る特殊なスポーツです。さらにボールが動かない時間も多い。理解が難しい分、奥も深く、多様な面白がり方ができます」と語ったうえで、「野球は“極上の縦の糸と横の糸で織りなすとびきり美しい織物”です。縦の糸は試合数や歴史、選手、情報量などから観戦者が設定する『自分だけの時間の流れ』であり、横の糸は『今、目の前で起きているプレー』。これらを組み合わせてそれぞれの楽しみができるのが野球です」と熱弁を振るいました。

最後に、AIの進化とスポーツ実況の変化について触れ、「スポーツ実況は単なる情報伝達ではなく、人間の感情や魅力を伝える重要な役割を持ちます。特に野球はスポーツの中でもルールの複雑さや技術の高さ、戦略性など特殊な要素が多く、実況の面白さにもつながっています。スポーツが心を揺さぶるのは『人間の営み』だからこそ。実況という行為も同じく生身の人間の営みです。AIにはできない人間の力を、スポーツと実況を通じて視聴者の方たちに感じてもらいたいと考えています」とまとめました。質疑応答では「試合展開によって気分が盛り上がらない場合もあると思いますが、そういったケースでの対処方法はありますか?」「解説者の魅力をどう引き出していますか?」といった質問が寄せられたほか、植田准教授が担当する授業「地域創造フィールドワークC」の一環で、視覚に障がいがある方とのスポーツ観戦に取り組んだ学生からは、「目の前で起きているプレーをどのように伝えるか苦労しました。何かポイントがあれば教えてください」との質問も上がり、大藤氏は、「単に情景を描写するだけでなく、想像力を掻き立てるような話ができるよう心掛けてください」と回答しました。


