海洋生物科学科の木原稔教授らの研究グループが、シロサケの胃抽出物に心不全予防効果があることを確認しました

生物学部海洋生物科学科の木原稔教授らの研究グループがこのほど、シロサケの胃抽出物を食べさせたマウスに心不全を誘発した結果、食べなかったマウスは死亡し、食べさせたマウスは死亡しないことを確認しました。研究成果は「Journal of Food Science」誌に「Protective Effect of Dietary Ghrelin-Containing Salmon Stomach Extract on Mortality and Cardiotoxicity in Doxorubicin-Induced Mouse Model of Heart Failure」の題名で掲載されています。

脊椎動物の胃では「グレリン」というホルモンが産生されており、摂食促進や体重増加、成長ホルモンの分泌、消化管機能調節など、エネルギー代謝調節に重要な作用を担っています。グレリンは、慢性心不全患者の左心室機能改善や培養心筋細胞死の抑制といった効果をもつため、グレリンを用いた循環器病治療の研究が活発に進められており、治療薬としての臨床利用も期待されています。

木原教授は、国立循環器病研究センター研究所の海谷啓之博士、宮城大学食産業学部の西川 正純教授と共同で研究を推進。心不全に効果のあるグレリンが魚類の胃の中にも存在している点や魚類の内臓が産業廃棄物として大量に処分されている点に着目し、北海道内の加工場で採取したシロサケの胃からグレリンを抽出しました。マウスへの投与では、対照飼料としてグレリン無添加の餌とグレリン含有シロサケ胃抽出物を10%添加した餌を与えるグループに分けてあらかじめ4週間給餌。その後、ドキソルビシン(DOX)という薬で心不全を誘発しました。DOX注射から4週間後のマウス死亡率は、シロサケ胃抽出物を摂取していないグループでは40%にもなりましたが、摂取しているグループでは死亡は観察されませんでした。このほか、血液中の心臓障害マーカー値や腹水量、心臓組織像、心電図などのデータでも、シロサケ胃抽出物を摂取したマウスでは心臓障害が抑えられたことが確認されました。マウスが摂取した飼料中の活性型グレリン含有量は約2,400pmol/kgであり、無添加の餌の600倍以上の量でした。

また、グレリンには摂食促進作用がありますが、今回の実験に用いたマウスの一日あたりの摂食量は、シロサケ胃抽出物を摂食したグループでは無添加のグループに比べ有意に多くなっていました。これらのことから、本研究グループではシロサケ胃抽出物に含まれるグレリンが経口的にマウスに摂取された後に体内に吸収され、心不全予防効果を表したものと考えています。

木原教授の研究グループではこの研究成果について、「生活習慣に起因して増加している心疾患患者ならびにその予備軍に対する予防・病態改善に有効な食品素材となる可能性を示唆するもの。さらに、魚の内臓のように日々大量に廃棄されている生物資源の活用につながるものだといえます。また、グレリンはこれまで合成物の投与(注射)によって、その生理作用や臨床応用が検討されてきましたが、魚類由来の天然グレリンをマウスに経口的に摂取させて心不全を予防できた例は、世界初のケースであると認識しています」としています。