松前ひろみ助教が情報処理学会の「2020年度(令和2年度)山下記念研究賞」を受賞しました

医学部医学科基礎医学系分子生命科学の松前ひろみ助教がこのほど、一般社団法人情報処理学会の「2020年度(令和2年度)山下記念研究賞」を受賞しました。同会の研究会および研究会主催のシンポジウムにおける研究発表から特に優秀な論文を選び、その発表者に贈られる賞で、今回は36研究会の主査から推薦された計51編の論文が選ばれました。

松前助教の受賞テーマは「文化×バイオ×コンピュータでの解析-言語類型論に基づく言語データベースとゲノムデータの統合的解析の提案-」です。多様な言語が存在する東アジアの民族ごとに、ゲノム、文法、音素、音楽の4要素をそれぞれ変数に置き換えて比較することで、人の歴史や集団の関係性を調べてきました。具体的には、ゲノムのA、T、G、Cの4つの変数に対応するように、言語は既存のデータベースを用いて主語(S)・目的語(V)・動詞(O)の並び順や動詞が過去形を取るか否かなどを、音楽は民族音楽や民謡の構造やリズムを、音は種類や数などをそれぞれ数値化して比較。4要素の関係の強さを調べたところ、ゲノムと文法の間にのみ強い相関関係が見られました。これにより、たとえば韓国人は日本人に遺伝的に最も近い民族集団の一つですが、こうした関係は言語同士を比較したときに、日本語と韓国語の単語(語彙)には借用語を除くとほとんど共通点はありません。一方、日本語と韓国語を文法で比較すると、他のアジアの言語に比べて、互いに似ているというこれまでの言語学の定説がありますが、今回の発見はそうした既知の知見も支持しています。情報処理学会では、データベースを作るだけではなく、文系と理系という分野が異なるものを同じレイヤーに落とし込んで解析し、サイエンティフィックな新しいストーリーを生み出したことが高く評価されました。

2012年ごろから取り組んできたこれらの研究について松前助教は、「ヨーロッパの言語は強い近縁関係が見られますが、アジアは民族の多様性がとても高く、失われた言語も多いことから、歴史が入り組んでいるのではないかと感じていました。私が専門とするゲノムは統計的な研究であり、民族の遺伝的な歴史の研究は進んでいますが、『文化』という側面ではあいまいな部分が多く、研究が進んでいないことも調査を始めるきっかけになりました。歴史学というと、文献を調べ、遺跡を発掘するというイメージが強いと思いますが、ゲノムを読み解くことで『歴史的な記録』がなくてもわかることもたくさんあります。たとえば、縄文人の骨から抽出したゲノムを解析したところ、考古学で定説的に語られているシベリアではなく東アジア人や東南アジアの民族と近いことがわかってきました」と背景を語ります。今回の受賞については、「言語や音楽を専門とする共同研究者に恵まれたことも大きい。今はそれぞれの代表値を取って比較しているので、今後はもっと細かな違いを解析していきたいと考えています」と話しています。