海中に沈めて熟成させた酒の味や香りを評価する「海底熟成酒官能評価会」を実施しました

海洋学部の教員が12月1日に、清水区の三和酒造株式会社で清水港内の海底に日本酒を沈めて熟成させる「海底熟成酒」の味や香りを評価する「海底熟成酒官能評価会」を実施しました。この研究は、「沈没船など海底から引き揚げられたお酒はおいしい」という古くからの伝承を参考に、実際に海底に沈めた酒の変化を調べ、静岡県内の酒造業者らと連携して新たな特産品の創出につなげることを目的に昨年度から実施しています。本研究に参画する三和酒造では、清水区で栽培した米を醸した日本酒を清水港内で海底熟成することによって高付加価値をつける「清水テロワール」を計画しており、本評価会は商品化に向けた取り組みとして企画しているものです。本学からは、水産学科の後藤慶一教授と海洋生物学科の鉄多加志准教授、両教員の研究室に所属する学生が参加しています。

後藤教授らは、昨年度の沈酒熟成酒官能評価会後に成分分析も実施しています。その研究結果や特産品の創出について、静岡県の企業や団体の取り組む研究をサポートする「B-nest」(静岡市産学交流センター・静岡市中小企業支援センター)に提案して、研究助成金を獲得しました。今年7月末には、株式会社鉄組潜水工業所の協力を得て、清水港内の水深2.5mの海底に455本の日本酒を貯蔵。そのうちの約300本を11月16日に引き揚げました。

評価会当日は、三和酒造の代表者と鉄准教授、20歳以上の学生が清水区両河内で栽培した幻の酒米「亀の尾」で醸した日本酒「臥龍梅 両河内亀の尾」をはじめとする6種類の酒を、「陸上で熟成させた酒」「約3カ月海底熟成させた酒」「遮光して海底熟成させた酒」の3パターンを用意。それぞれの味わいや香りなどを多様な観点から比較して評価しました。三和酒造の鈴木克昌社長は、「今回沈めた日本酒の多くは熟成向きの酒のため、それほど大きな変化はまだ見られませんでしたが、この先長期熟成したものにはどのような変化が起こるのか楽しみです。中でも、亀の尾と臥龍梅スパークリングの2種は清水の地酒なので、テロワール実現に向けてさらに化けてくれることを期待しています。また、昨年度と同様に海洋学部で学術的な分析をすることで、特産品の完成に近づいていければ」と期待を語っていました。また、鉄准教授は、「潜水技術や成分分析など海洋に関する本学部の知見と、酒造、海底約2000mの恵み豊かな駿河湾が同じ清水にそろっているからこそ実現できたプロジェクトです。今回の評価結果や分析を踏まえて、貯蔵環境や温度などを加えた応用研究へと進めていく」と話していました。

後藤教授は、「今回はスパークリングも沈めているので、発泡にどのような変化が起きているか分析結果が楽しみです。熟成1年と1年半での引き上げも予定しているので、ソムリエの評価を成分分析の数値で裏付けし、酒の種類ごとの適切な熟成期間や環境、熟成原理などを見つけていきたい。同じ地域の海で海底貯蔵するテロワールはこれまで例はないので、新たなビジネスモデルの創出に向けて研究を進めます」と語っていました。