大学院医学研究科先端医科学専攻(博士課程)の田中里佳さんらの論文が科学誌『Frontiers in Microbiology』オンライン版に掲載されました

大学院医学研究科先端医科学専攻(博士課程)2年次生の田中里佳さんと医学部医学科の今井仁助教(総合診療学系健康管理学/総合医学研究所)、穂積勝人教授(基礎医学系生体防御学)らの研究グループが、炎症性腸疾患「クローン病」の原因菌「AIEC」と抗体「IgA」の関係を解明。「炎症性腸疾患における病原性共生菌へのIgA応答と臨床応用」と題した論文が2月23日に科学誌『Frontiers in Microbiology』オンライン版に掲載されました。

クローン病は、消化管に炎症や潰瘍、腸管狭窄が起こる原因不明の難病です。主に若年で発症し、腹痛や栄養吸収障害による著しいQOLの低下を招きます。薬物療法も進展していますが完治は難しく、手術による狭窄部位の切除や内視鏡による拡張術といった治療を施しても約40%の患者に再狭窄が起こるため、新たな治療法の開発が待ち望まれています。 研究グループでは、クローン病の原因となる病原性共生菌「AIEC」(接着性侵入性大腸菌)と、腸管粘膜表面の病原菌に結合してその機能を無効にする働きを持つ「IgA」の関係を調査。無菌状態のマウスを作製し、それにヒトのAIECのみを保菌させて観察した結果、マウスの腸内にAIECだけに反応する特別なIgAが作られることを明らかにしました。このIgAは、クローン病の新たな診断・治療に活用できると期待されています。

穂積教授は、「本研究は、ヒトのAIECを長期間にわたり安定して保菌できるマウスなしには進められません。保菌マウスの作製は、環境やマウスのコンディションなどに左右されるため非常に難しい作業ですが、田中さんは地道な工夫を重ねて完成させてくれました。論文も主筆者として、投稿先のレビュアーからの度重なる指摘に真摯に対応し続けるなど、まさに田中さんの努力があってこそ得られた成果といえます」と話します。 田中さんは、工学部生命化学科を卒業後に本研究科に進学し、穂積教授の下で免役に関する研究に取り組んできました。「今までわからなかったことが徐々に明らかになるのが研究の面白さです。答えにたどり着くまでが遠い道のりであっても、一歩ずつ近づいていけるのがうれしい。医学部の若手研究者や、他学部・他大学の研究者との交流も楽しく、新たな気づきや学びにつながっています」と語ります。「論文が発表できたのは先生方のおかげと感謝しています。これを励みにさらに研究を進展させ、多くの患者さんの力になりたい」と意欲を見せています。

※『Frontiers in Microbiology』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2023.1031997/full