農学部食生命科学科食品バイオ化学研究室の木下英樹准教授と、本学発ベンチャー・株式会社プロバイオ※１が中心となって開発したアイスクリーム「SOYOGU」がこのほど完成。４月14日に熊本県西原村で開かれた「西原村復興祭」で先行販売を実施しました。商品名は阿蘇にそよぐ風をイメージ。木下准教授らの研究グループで見出した特別な「乳酸菌※２」を使ってプロバイオで製造した「豆乳ヨーグルト」(200 億個の乳酸菌含有)をはじめ、西原村のひろせブルーベリー園で収穫されたブルーベリーと熊本県産の大豆を使って同じく西原村の株式会社田代食品で作られた「豆乳」、熊本県産牛乳などを使用しています。ブルーベリーの生産では農学部生らによるチャレンジプロジェクト「阿蘇援農コミュニティープロジェクト」が管理・収穫に携わったほか、アイスクリームの試作やレシピ作りには「商品開発サークル」のメンバーが参画。アイスクリームの製造は菊池市の株式会社ついんスターが手がけ、約２年をかけて完成に至りました。
プロジェクトは、農業従事者の高齢化や働き手不足といった問題に加えて、日本全国の生活習慣病患者が増加傾向にあり、農業県・熊本においても働き手不足を助長していることから、農林水産省「農山漁村振興交付金 農山漁村発イノベーション推進事業」の採択を受け、木下准教授が会長として「熊本・九州 農山漁村 食のイノベーション協議会」を立ち上げて始動しました。「これらの問題を解決し、地域農業の継続と活性化をするためには、6次産業化による農業従事者の所得向上、阿蘇援農コミュニティープロジェクトと農家との連携体制の構築による働き手不足の解消、予防医学に基づいた生活習慣病の予防が必要不可欠であり、特に生活習慣病には慢性炎症の関与が指摘されているため、抗炎症作用を有する食品の開発を目指しました」と木下准教授は振り返ります。
木下准教授らはこれまで、豆乳を乳酸菌で発酵させた豆乳ヨーグルト（発酵豆乳）に関する研究を展開し、抗酸化作用や終末糖化産物（AGEs）生成抑制作用、腸内細菌叢の改善効果、抗炎症作用などを見出していたことから、西原村の活性化も図るため地域で生産されたブルーベリーを用い、抗炎症作用が期待される豆乳ヨーグルトベースのブルーベリーアイスクリームを開発することを第一の目的としました。同時に農家を継続的に支援する援農体制を構築し、持続可能な社会づくりに貢献することを第二の目的としています。
商品開発はコンセプトを固め、完成まで毎月数時間にわたって５者がそろって議論。商品開発サークルを中心に何度も試作を繰り返した後、そのレシピをもとについんスターが最終的な調整を図ってきました。また、研究面ではベースとなる大豆の選別のため発酵性試験や豆乳ヨーグルトの抗炎症能を評価した後、最終的な商品も同様に試験しました。
そうして完成した「SOYOGU」は、西原村の活性化を目的としたプロジェクトであることから、「西原村復興祭」での先行販売を決定。当日は、木下准教授とプロバイオ前代表取締役社長で本学大学院生物科学研究科（博士課程）３年次生の中島勇貴さん、在学中に商品開発サークルのリーダーを務め今春に大学院農学研究科を修了してプロバイオに勤務する福地雄大さんらがブースに立ち、プロバイオが開発した豆乳ヨーグルト専用種菌「ソイペディオ」や豆乳ヨーグルトを使ったスムージー、ポップコーンなども合わせて販売しました。続々と訪れた来場者は、珍しいアイスクリームに興味津々の様子で木下准教授らの説明を聞き、豆乳ヨーグルトとブルーベリーのさわやかな味わいに舌鼓を打っていました。福地さんは、「学生時代から開発に携わり、こだわりの詰まった商品として販売できる形にまで至って感慨もひとしおです。ぜひ多くの人に楽しんでもらいたい」と話していました。
「SOYOGU」は今後、本学熊本キャンパスや阿蘇くまもと臨空キャンパス内の売店、西原村や南阿蘇村の道の駅を中心とした土産物店で販売を予定しているほか、通信販売も行う計画です。
※１ 株式会社プロバイオは、農学部においてさまざまな食品からの乳酸菌の分離をはじめ、機能性解明における基礎研究や利用・開発に関する応用研究に従事し、多くの知的情報を蓄積してきた成果を社会に還元し、産業的活用を図るため2021年11月に合同会社として設立。23年８月に株式会社化し、木下准教授が代表取締役CEO、中島さんが代表取締役社長を務めてきました。24年４月には中島さんが日本学術振興会特別研究員（DC2）に採用されたことを受け、社長を本学の井越敬司名誉教授に交代しています。
※２ お米から単離した「Pediococcus pentosaceus TOKAI 759m」
