大学院工学研究科建築土木工学専攻1年次生の小山裕史さん(指導教員=渡邉研司教授)が、7月13日に発表された「2021年日本建築学会優秀卒業論文賞」を受賞しました。この賞は、全国の大学から応募のあった卒業論文から15作品が選ばれるものです。
小山さんの論文は「1900年パリ万博におけるコンコルド門のデザイン過程について-建築家ルネ・ビネの生物学的形態研究-」がテーマです。19世紀末のフランスで活躍した建築家ルネ・ビネは、パリ万国博覧会のメーンゲートとして利用されたコンコルド門を設計し、プランタンデパートの増築計画を手がけている途中で45年の生涯を終えました。コンコルド門はパリ万博に合わせて仮設的に建てられたもので、写真とビネの著作『装飾的スケッチ』しか残っておらず、日本には研究者もいないことからその多くが謎に包まれています。
小山さんは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けながらもインターネットを駆使して海外の文献や資料を読み込み、渡邉教授の紹介でビネが影響を受けたドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルを研究する本学の佐藤恵子名誉教授からも助言を得るなどして研究を進めていきました。「ヘッケルが発見した、顕微鏡を通して初めて確認できる放散虫をはじめとした微細な生物のスケッチと、ビネがコンコルド門に施したデザインが類似していることから、二人の関係性を調べ、やり取りした手紙などから放散虫の外骨格が持つ幾何学的な形態の要素を抽出して再構成したデザインが用いられていることを確認しました。ビネの学生時代の作品からは、放散虫をはじめとする生物の形態を装飾や建築へ取り込む実験的な試みが確認できており、綿密に研究したうえで設計に落とし込んでいたことが考察できます」と話します。「アール・ヌーヴォー潮流における有機的な形態を用いた建築や装飾は、設計者の個性や見方、感じ方によって表現が異なり、後にほかの人が模倣したとしても本来の優美さや力は徐々に分解され、最終的にはなくなってしまうと考えたビネは、機械的に説明できる装飾や建築を目指しました。その中で可能性を見出したのが放散虫といった生物の形態だったのだと考えられます。また、ビネはヘッケルの唱えた一元論思想に共感していたと考えられており、門のデザインのうち、生物の形態に由来しない装飾は、産業や科学技術の発展を表現していることが分かります。さらに、大衆が感覚的に美しいと感じる『単純な美』や『左右対称の美』なども用いられていることから、門全体がヘッケルの唱える『一元的な美』そのものを表現していることも明らかになりました」と話します。
小山さんは、「目標にしていたので、受賞の知らせを聞いたときはうれしかったです。コロナが収束したら、実際にフランスに足を運んで、インターネットでは閲覧不可の資料も見てみたい。また、渡邉先生が取り組んでいる、人間が脳でどのように考えて設計したのかを分析するニューロサイエンスにも興味があるので、生物形態学、建築学と結びつけてアール・ヌーヴォー建築を論じていきたい」と今後の目標を語っています。