平和戦略国際研究所が東京五輪・パラリンピックをテーマにシンポジウムを開催しました

平和戦略国際研究所(SPIRIT)が1月12日に湘南キャンパス2号館大ホールで、#新春SPIRITシンポジウム「コロナ禍のスポーツと政治とは!? 五輪・パラリンピックの主役は、アスリート!! 国家は…感動の記憶を冷静な記録へ、塗りかえる時は―いま」を開催しました。新型コロナウイルス感染症の拡大により1年延期して昨年7月から開催された東京2020夏季オリンピック・パラリンピックは、開催に反対する国内世論を押し切り十分な説明なしに実施を強行した菅義偉政権を退陣させるきっかけになりました。一方で、日本人選手らが活躍する姿に多くの国民が拍手を送り、鬱屈したコロナ禍における生活に“一瞬の光が射した”時間となり、パラリンピックは、子どもたちに多くの学びの機会を提供しました。本シンポジウムは、「スポーツの感動」と「政権のスポーツ利用への不満」を同時に体験した記憶を正確な記録としてとどめ、東京2020大会の残したものや、政治とメディアの責任など、そこから得られる教訓を探るとともに、五輪後の日本人の変化について学生、教職員がともに考える機会にしようと企画されたものです。

当日は、前オリンピック・パラリンピック担当大臣で参議院議員の丸川珠代氏、公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)会長で本学の山下泰裕副学長、全柔道全日本男子監督で体育学部の井上康生教授、本学の山田清志学長、医学部付属病院病院長の渡辺雅彦教授がパネリストとして登壇。SPIRITの末延吉正所長(政治経済学部教授)がモデレーターとして司会進行を務めました。まず、山田学長が「本学では昨年12月に東京2020大会の報告会を開き、五輪で活躍した方々を称賛する機会となりました。今回のシンポジウムでは、また違う観点で少し距離を置いたところから東京五輪・パラリンピックについて振り返る機会にしたいと思っています。会場の皆さまの積極的な参加をお願いします」とあいさつ。続いて、丸川氏や山下副学長が、世論が分かれた開催の是非や当時の政権の判断、IOCのトーマス・バッハ会長の言動を巡るメディアの報道などを振り返り、山下副学長は「日本の選手たちにとっても大変な状況でしたが、その中でも頑張ってくれました。バッハ会長からは会うたびに、“大会の成功は開催国の選手たちの活躍抜きにはありえない。開催国の選手たちが頑張らなければ、大会は盛り上がらない”と言われました。また、五輪はスポーツ界だけのイベントではなく、50年に一度の国家的なイベント。JOCではさまざまな関係団体との連携、協力を強く打ち出していました。コロナ禍での日本選手団へのワクチン接種や日本の選手たちの海外への派遣、予算の柔軟な活用など、丸川大臣をはじめ、スポーツ庁、内閣府など、さまざまな機関が一つになって頑張ったことでこの成果につながった」と強調しました。

また、選手たちが置かれた立場や五輪開催時の現場の状況について井上教授が紹介したほか、渡辺教授が医学者の立場からコロナ禍における五輪開催について、感染状況などのデータをもとに分析。山田学長は「多くの人々が五輪を底から支え、見えないところでも苦労をしたことで、いい結果が出たのだと思います。アスリート自身の発言の是非など教訓も多くありました。アスリートが自分たちの意見を言える土壌をつくらないといけない」と提言しました。

途中、会場の参加者からも質問が寄せられ、政治経済学部の学生が丸川氏に「パンデミックの中で五輪は結果としていいものになったと思いますが、政府の観点からキーポイントになったことは?」と問うと、丸川氏は「我々政府関係者はあくまで支える側であり、責務を果たす側で、無観客、水際の措置をしっかりやりましたが、多くの皆さまのご協力があったからこそできたものです。開催の是非については、私たち政治家が何かを言うべきではなかったと思います。ただ選手や関係者の皆さんに『ありがとう』という気持ちを伝えたいと考えています」と答えました。また、大学におけるコロナ対策とスポーツ選手らを巡るコロナの感染対策について渡辺教授から注意点が語られると、体育学部の学生からは試合会場における観客の有無について質問が上がり、山下副学長が「有観客でやりたい気持ちはよくわかります。各競技団体も“できれば有観客でやりたい”と考えていますが、それより優先するのが選手に試合のチャンスをつくることです。観客の有無は、医師の判断も聞く中で、国内外、室内外と条件によって変わってくると思いますが、専門家の意見を聞きながら対応が図られています」と答えました。

最後にパネリストがそれぞれまとめを語り、井上教授は「東京五輪を経て、コロナ禍でのスポーツの価値を考えると、よりいっそうスポーツが社会と結びつくとともに、社会への還元を意識した活動が重要と感じました」とコメント。山下副学長は、「今回の東京2020大会はオリパラ一体で取り組んできましたが、これまでの日本社会、スポーツ界と比較して、障害者スポーツへの理解が飛躍的に進んだと信じています。東海大学は今、SDGsの実現に力強く一歩踏み出していますが、今後もさまざまな多様性や違いを認め、互いを尊敬し合い、支え合う大学になってほしいと願っています」と語り、シンポジウムを締めくくりました。

なお、本シンポジウムの詳細は、北京冬季五輪・パラリンピック大会と併せて『コロナ禍のスポーツと政治を考える』評論集として、5月ごろに平和戦略国際研究所から出版の予定です。