大塚正人准教授らの研究グループが「遺伝子改変マウス作製の簡便化を実現する新しい手法」を開発しました

医学部医学科基礎医学系の大塚正人准教授を中心とする共同研究グループ※がこのほど、遺伝子改変マウス作製の簡便化を実現する全く新しい手法である「GONAD(Genome-editing via Oviductal Nucleic Acids Delivery)」法を開発。この研究成果が6月22日付(イギリス時間)のオンラインジャーナル「Scientific Reports」に掲載される予定です。この研究は、マウスの体外に受精卵を取り出すことなく、卵管内にある着床前胚の細胞膜に微細な穴を開け、細胞外の核酸を内部に入れることで着床前胚のゲノムを容易に遺伝子改変し、特定の遺伝子が改変されたマウスを作製することを可能にしたもの。遺伝子改変マウスの作製に伴う高度な手法・工程をスキップすることに世界で初めて成功しました。

特定の遺伝子が人為的に改変されたいわゆる「遺伝子改変マウス」は、人間における疾患発症の機構解明や疾患治療薬の開発、機能不明な遺伝子の解明、遺伝子治療など、個体レベルで医学・生物学的実験に広く用いられています。一般に遺伝子改変マウスの作製には、極細のガラスピペットを用いて受精卵に核酸の溶液を直接注入する「顕微注入法」という手法が普及しています。この手法の場合、妊娠母体マウスの卵管から1細胞期受精卵を回収(採卵)し、これに核酸溶液を顕微注入したものを偽妊娠マウスの卵管に移植するという一連の工程が必要となります。しかし、熟練した技術と高価な設備が必要とされるため、誰もが容易に遺伝子改変マウスを作製できる環境にあるとはいえませんでした。本研究グループでは、受精卵(着床前胚)を有する卵管内に核酸を注入し、直ちに卵管全体に対して電気穿孔法(電気的なショックで細胞膜に微小な穴を開け、細胞外の核酸を細胞内部に導入する方法)を行い、「顕微注入法」で必要とされる採卵、核酸の顕微注入、移植といった一連の工程を介することなく遺伝子改変マウスを作製することが可能と考え、新しい手法の開発に取り組んできました。

そこで、近年注目されているゲノム編集技術の一つであるCRISPR/Cas9系に関連したRNA(Cas9 mRNAとsgRNA)を、2細胞期胚を含んだ妊娠雌マウスの卵管に注入し、その卵管に直接電気穿孔法を実施。この結果、複数の内在性遺伝子とeGFP蛍光遺伝子のノックアウト(破壊)に成功し、本手法を介して、標的とする特定の遺伝子を簡便にノックアウトすることができることを明らかにしました。また、この結果により、高度な「顕微注入法」を用いることなく遺伝子改変マウスが作製可能であることが示されました。研究グループでは、この新しい手法を「Genome-editing via Oviductal Nucleic Acids Delivery(GONAD)」法と命名しました。

研究グループでは、「GONAD法は小規模研究室や学生個人レベルで遺伝子改変マウスの作製を可能にするもので、これらの動物を用いた研究の加速化に大きく貢献できる。また、この手法では胚移植を必要としないため、使用するマウスの削減にも貢献でき、動物福祉的観点からも今後推奨されるべきであるとともに、今後はマウスと比べて胚操作が困難であるブタやウシなど家畜への応用(ウイルス感染非感受性個体の作製など)にも期待されます」としています。

■本研究成果掲載論文
Takahashi G., Gurumurthy C.B., Wada K.,Miura H., Sato M. and Ohtsuka M. Genome-Editing via Oviductal Nucleic Delivery(GONAD)System: a novel microinjection-independent genome engineering method in mice. Sci. Rep.(in press)

※共同研究グループ参加者
鹿児島大学医用ミニブタ・先端医療開発研究センター・遺伝子発現制御分野 佐藤正宏教授
東京農業大学生物産業学部大学院生 高橋剛さん
米国・ネブラスカ大学医療センター Gurumurthy博士
ほか