ヨーロッパ学術センターがセミナー「新たなデジタル技術と高齢社会」を開催しました

ヨーロッパ学術センターで11月23日に、セミナー「新たなデジタル技術と高齢社会:デンマークと日本における保健医療分野のイニシアティブ」をコペンハーゲン大学公共健康学科と共催で開催しました。世界一の長寿国である日本と、行政のデジタル化が進むデンマークの医療・介護・ヘルスケア分野の取り組みや現状を明らかにするとともに、高齢化が進む両国でのデジタル技術やビッグデータの活用などについて考えることを目的としています。本センターを会場にオンラインでも配信し、約120名(会場招待、オンライン事前登録者含む)が参加しました。

当日は、まず本センターの堀真奈美所長(健康学部教授)がセミナーの概要を説明し、「本日は、新しいデジタル技術を活用して健康長寿社会の創造に向けて何が必要なのか、日本・デンマークの知見をふまえて皆さんと議論ができることを楽しみにしています」とあいさつ。一般社団法人次世代基盤政策研究所代表理事で東京大学名誉教授の森田朗氏は動画で、日本の医療現場でマイナンバーカードを活用したデジタル化が進んでいることに触れ、情報を共有する仕組みを整える重要性などを語りました。続いて堀所長が、「なぜ新しいデジタル技術が必要なのか?―日本の医療政策の視点から」と題して講演。日本人の平均寿命の長さや、戦後生まれのベビーブーム世代が人口ピラミッドの多くを占める現状から、近い将来、超高齢化社会を迎えると説明しました。「労働人口の急激な減少、医療・介護等に携わる人材不足が予想される中、これまで医師や看護師、ケアワーカーが担ってきた業務は、未来社会では、ロボット、AI、ICTなどの先端技術を活用するとともに専門職種間のタスクシフトが進むのではないか」と解説。また、「政府はいま、マイナンバーカードを通じて医療機関等が現在の診療情報や処方箋情報に加えて、カルテ、予診情報、接種記録、検診情報など多岐にわたる情報を閲覧・利活用できるよう、医療とヘルスケアのDX化を推進しています」と説明するとともに、仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムによって経済発展と社会的課題の解決を両立する政府の「Society 5.0」についての動画も紹介。「新しいデジタル技術の社会実装に影響を与える政策や戦略」「政策の成果をどのように評価するのか」などを未来に向けた議論のポイントとして挙げ、「今日のセミナーでは、未来に向けてこれらの議論を深める機会にしたい」と結びました。

その後は、デンマーク財務省ナショナルICT協議会首席顧問のカレン・イヴァーセン博士が「デンマークのデジタルトレンドと公共部門のデジタル化」について語り、デンマーク在日本大使館の原田勝氏と吉田裕央氏は、ICTを活用した日本の介護・福祉商品などを紹介。デンマークで日本のケアロボットである「パロ」が導入されていることを説明。コペンハーゲン大学のイベン・ギョスボル講師は「デンマークにおけるデジタルインフラと予測アルゴリズム、AIの開発」について、最新の研究結果からAI活用の課題を述べました。ロスキレ大学の安岡美佳准教授は「ユーザー視点の価値、テクノロジーをどう社会実装するか」をテーマに講演しました。最後に講演者全員が登壇して参加者の質問に答えながらディスカッションを展開。コペンハーゲン大学の公共健康学科長のタイス・ランゲ教授がデジタル医療におけるデンマークの課題を述べた上で、デジタルテクノロジーの活用に関する両国の知見を共有することの重要性をふれ、閉会しました。