ヨーロッパ学術センターがコペンハーゲン大学と「価値に基づくヘルスケアに関するオープンセミナー」を開催しました

東海大学ヨーロッパ学術センター(TUEC)では2月29日に、「価値に基づくヘルスケア(バリュー・ベースド・ヘルスケア)に関するオープンセミナー」を開催しました。コペンハーゲン大学と共催したもので、会場にはデンマーク国内の研究者のほか、ノルウェー、アメリカ、日本で研究実績のある研究者や医学生、日本大使館関係者、元大臣経験者ら、産・官・学の多様なバックグラウンドを有する37名が集まりました。

はじめにTUECの堀真奈美所長(健康学部健康マネジメント学科教授)が、「価値に基づくヘルスケアは、今後の医療業界、ヘルスケア産業を考えるうえで非常に重要なキーワードです。価値に基づき医療のアウトカムを最大化すると同時に、コストを適正化するという経営学者のマイケル・ポーターが推奨した概念ですが、コンセプトへの共感は大きいものの、実際の現場では混乱も見られるなど、関係者間で価値の共有が難しく、何をアウトカムとするか、コストとするかも定まらないという課題もあります。今日は、コペンハーゲン大のほか、国内外の著名な有識者と活発な議論ができることを期待しています」と述べました。その後、コペンハーゲン大のシーナ・スミス准教授によるデンマークのヘルスケアシステムの強み、弱みについての報告の後、グローバル・ヘルスケア産業で豊富な研究・実務経験を持つサム・ステファンセン氏から価値に基づく医療の実現に向けたシミュレーションシステムなどについて、株式会社ロッシュの医療情報責任者であり、デンマーク・ライフサイエンス・クラスター理事のケネス・イエンセン氏から、患者の受診前から治療後までの経験・満足度、価値向上の取り組みやデータの活用方法などについての報告がありました。

それぞれの報告後には、「医療の場合は、患者だけではなく、医師や看護師にとっての価値、介護の場合は、家族やケアワーカーなど介護者にとっての価値も重要ではないか」「テクノロジーの導入にお金がかかっても、人手不足や労働者の負担軽減につながれば価値があるというがどう評価するのか」など活発な質疑が行われました。最後にコペンハーゲン大パブリックヘルス学科学科長のタイス・ランゲ教授が、「国内の医療システムの問題として考えがちですが、このような機会を通じて、グローバルな視点からデンマークの問題を改めて捉えることができた」と話しました。

その後、本学医学部生のための特別なワークショップとして、オスロ大学医学部で在外研究中の菅原琢磨教授(薬剤経済学)が薬剤に関する費用対効果分析について説明。菅原教授は、「ノルウェーは薬価規制がしっかりしており、過去30年の議論を経て、何を優先し、重症度の高い薬剤の価値を他のものよりも高くするなど、何をコストに入れるのかの原則が明確にあります。費用対効果においては、がん以外の重症度調整済みICER(増分費用効果比)に重点が置かれていることが分かります」と話しました。